<真弓明信&岡田彰布

 阪神バトンタッチ対談(下)>

 年齢は真弓監督が4歳上。だが岡田氏の5年に及ぶ監督経験則は、真弓監督にとって貴重な指針になる。

 真弓監督

 若い選手を育て、どう起用していくか。これを大きなテーマとして考えているんだが。

 岡田氏

 育てながら勝っていくというのは、実際に戦ってみて難しいということはわかった。ただ若手は使わないと伸びないというのも事実。ここの考え方がポイントじゃないですか。幸いチームには金本、下柳という手本がいる。特に精神面で学ぶところが多い。

 真弓監督

 若い選手の考え方も理解しなければ、とは思うが、昔とは随分、考え方も変わっているよね。

 岡田氏

 びっくりしたことがあってね。若い選手を起用して活躍したんですよ。たまたまというか、ね。すると次の年になって、もうそういう選手の応援歌ができているんよ。こういうことで勘違いしたらアカンし、勘違いさせたらダメなんですわ。

 1985年をピークに、ともに同じ時代を戦った2人。野球への取り組み方、姿勢という点では共通したものを持っている。

 真弓監督

 自分はいま、どういう練習をすべきなのか、ということを考えて取り組んだよね。オカは体がとにかく強かったし、そこをベースに練習してたもんね。

 岡田氏

 強かったのは体だけじゃなかったから。酒をむちゃくちゃ飲んだら、絶対に次の日は結果を出さなアカンと思って、やってましたね。

 真弓監督

 酒といえば、やっぱり気持ちの切り替えとかで、難しかったんじゃないの。近鉄時代、梨田監督をずっと見てきたけど、監督ってこんなに仕事が多いのかって感じていた。切り替えが難しいやろなってね。

 岡田氏

 真弓さんは酒、飲むんですか。

 真弓監督

 飲むよ。まあ、あまり飲まないようにしないと、とは思ってるけど。

 岡田氏

 自分の場合、疲れはしなかったけど、甲子園はいつも満員。常に勝たねばならぬという意識が強くてね。だから毎試合、目いっぱいにいってたし、負け試合が作れなかった。そこが特にしんどかったですね。

 真弓監督

 監督として、まず見ることから始めようと思っている。コーチ時代もそうだったけど、観察することは大切なことだよな。

 岡田氏

 先輩にこういうのも失礼だけど、監督は動かない方がいい。いい状態の時は勝手に勝つんですから。それより見ることです。特にコーチを見ること。どういうことをしている、どう教えている、というのを把握してたらいいんじゃないですか。監督が出て行くのは、ホンマ、最後の時。選手は監督についていくんです。

 真弓監督

 ネット裏からとベンチからでは大きな違いがあるし、コーチといってもパ・リーグしか経験がない。野球の違いもある。まず見て知ることから始めるよ。オカにも今後、いろいろ教えてもらうけど、よろしくたのむな。

 岡田氏

 とにかく監督、がんばってください。

 予定の時間を過ぎても、話は尽きない。新監督と前監督が就任会見の当日に、こんな形で語り合うことは、阪神の歴史上でも極めて珍しいことだろう。真弓監督にとってこれ以上ない前監督からの「就任祝」になった。(完)【取材・構成=内匠宏幸】