「平成の水原勇気」こと女性初のプロ野球選手となった吉田えり投手(16=神戸9クルーズ)と、人気マンガ「野球狂の詩」の原作者・水島新司氏(69)の「ドリーム対談」が実現した。吉田の決め球ナックルボールを水島氏は「ドリームナックル」と命名。吉田と水原勇気を漫画で共演させることを約束した。水原勇気の「ドリームボール」と「ドリームナックル」の共演、さらに吉田を指名する可能性がある現役プロ野球監督とは…。漫画から現実の世界に飛び出したドリームガールには、夢がいっぱいだ。(取材・構成=村上久美子、前田祐輔)

 水島氏

 いやあ、やっと会えたねえ。本物の水原勇気だよ~。水原勇気を描いた時には、野球漫画の水島と言われてるからには興味本位じゃだめだと。山田久志のシンカーを参考にして「ドリームボール」と名付けた。当時は女性入団が禁じられていたプロ野球協約に、マジメに挑戦したわけですよ。まさか生きてる間に本当に…。今、騒がしいでしょう?

 吉田

 う~ん、でも、まだ実感わかないんです。あっ、町で声を掛けられました。「ナックルボーラーだ」って。どうもって答えときました。

 水島氏

 えりちゃんの投球をスローで見せてもらいました。絶対客寄せパンダじゃない。ナックルを徹底してやってきたっていうのは、夢のえりちゃんですよ。生きている間に女子プロ野球選手にはお目にかかれない感じでしたから。デビューする時は、私は「ドリームナックル」と名付けたいですね。ドリームボールのライバル球ですね。それほど私は興奮しています。

 吉田

 うれしいです。名前が決まりました。

 水島

 ところで水原勇気を知ったのはいつ?

 吉田

 中学3年の夏にお父さんが教えてくれて。中学の野球が終わって、高校で男子と野球するとなれば武器がいるからって。ウェークフィールド(レッドソックス)投手のビデオと一緒に見せられて、緩い変化球を覚えようって。で、ナックル覚えるために、お父さんが握りの本を買ってきてくれました。だから、私のナックルは我流なんです。

 水島氏

 はいはい、それがナックルかあ。でも、誰かの指導受けたわけでもないんだなあ。これは、野球漫画家冥利(みょうり)に尽きますよ。早速、アイデア考えなきゃ。漫画にしますよ、えりちゃんを!

 いい?

 吉田

 はい!

 もうほんと…漫画に出させてもらえるだけで、ありがたいです。だったら、水原勇気選手と一緒に出たいです。水原選手見て、私も頑張ればプロになれるって勇気づけられましたから。

 水島氏

 あ、それだよ!

 共演だよ!

 おれもドジだなあ。今、ドカベンとあぶさん連載やってるから、そっちに出すことしか考えてなかった。共演ってのは頭になかった。そうだよな、読み切りならいけるよ。それが早い!

 水原勇気、もう1回書ける。吉田家と球団の許可があればいいよね?

 

 同席していた吉田の両親は「ぜひ」と感激しながら漫画化を即諾。

 吉田

 すごい。本当ですか?

 私、ナックルは、ずっとお父さんと練習したんですけど、揺れて落ちるから、お父さん捕れないんですよ。「捕ってよ~」って毎日ケンカしてました。

 水島氏

 それはいい。もう(漫画原案は)出来上がったよ。えりちゃんとお父さんがキャッチボールしてて、えりちゃんにお父さんが怒られてる。そこに偶然、水原勇気が通りがかるって設定にしよう!

 で水原がえりちゃんの球を「受けてあげようか」って構える。えりちゃんが「あれ、おばさん、左?」って返して…。これはいいな。できた、できた!

 吉田

 もう、どんなふうに描いてもらってもいいです。漫画に出られるだけでうれしいですから。

 水島氏

 そうかあ。えりちゃんの話、聞いてると、どんどん漫画の構想が広がるなあ。僕はね、ドラフト後で騒がれてからのえりちゃんじゃなくて、ドラフト前のえりちゃんを描きたかったんですよ。で、最後の主役は(神戸の)中田(良弘)監督ですよ。ドラフトの場面。6番目まで名前が出てこなくて、お父さん、お母さんと「えり…」とか言ってたら、7位指名にビックリ!

 ですよ。でも、これから「私も…」って女の子、どんどん出てくると思うよ。

 吉田

 そうですね。今はケンカばかりしてたお父さんに感謝してます。お父さんとケンカしたことより、高校入って、原因不明の右手首痛で野球部辞めることになった時の方が、つらかった。手首はまだ完治してなくて、ちょっと痛みが残ってるんです。(昨年11月の関西独立リーグ)トライアウトも、痛み止めの注射してもらって投げました。でも、やってきて良かった。

 水島氏

 独学でどんどん投げることによって、球数が増えて、それが練習になったんだろうね。いい話できると思いますよ。漫画は任せてください。餅(もち)は餅屋!

 商売ですから放っといたって、かわいく描きますから。

 吉田

 はい!

 ありがとうございます。

 水島氏

 今ナックルで何キロぐらい?

 吉田

 100キロ出るかでないかです。あまりストレートと変わらないです。まだ完成してないんです。コントロールと確率。あと切れも。10球中、10球いいボールがいかない。変化しないこともある。

 水島氏

 まだ未完成ですって。あの球が。欲を言うなら120キロのストレートがほしい。これでナックルを投げたら独立リーグの枠を超える。NPBに行けますよ。非常に投げ方いいですよね。しかも、そこかしこに女性が見える。男勝りじゃない。しぐさが女の子なんですよ。投げる前とか、ボールを受ける姿が女の子。ここが最高なんですよ。よく見ると、指の1本1本が女の子なんですよ。

 吉田

 ナックルは指の方が力いるんです。やわらかいボールで、水原勇気もやっていたじゃないですか。お風呂の中で(ボールを握る指のトレーニングを)。私もやろうかなって、思ってます。

 水島氏

 最初に水原勇気を書くときね、有藤とか田淵とか、どなたもね、まともに相談に乗らなかった。頭から女性は無理だよと。プロだよって。でも野村さん(現楽天監督)は本当に漫画チックな発想の人で。「女性かー。1つボールがいるな。落ちる球が一番いいな。1つあればバッター1人かワンポイント、1イニングとか使える」って言ったんです。

 吉田

 そうなんですか。野村監督はテレビで見ててすごいおもしろい方です。

 水島

 野村さんがずっと監督するならね、日本のプロ野球で最初にえりちゃんを取るのは、野村克也ですよ。ボクは本当に野村さんに見てほしい。もうテレビで見ていると思いますよ。「ええ投げ方してんな。ワシやったら」って。もうできていると思いますよ。ボクは野村さんに会ったらまず聞きますよ。どうですかって。

 吉田

 野村さんに会ってみたいです。楽天ファンなんです。田中マー君が好きなんです。すごい迫力が好きです。

 水島

 いつかマー君の奥さんになるかもしれない。そこまで夢を見ましょうよ。あなたの負けは私が取り返すみたいな。夫婦善哉(めおとぜんざい)ですよ。

 吉田

 えっ…(照れ笑い)。

 水島

 マー君一筋でいいですよ。それ以外の男性なんて今振り向いちゃだめですよ。野球です。

 吉田

 はい。(ボーイフレンドより)今は野球です!

 [2009年1月6日12時2分

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