<中日1-0横浜>◇15日◇ナゴヤドーム

 疲れも忘れてベンチから飛び出した。中日吉見一起投手(24)はサヨナラ打を放った井端をダッシュで追いかけると、祝福の輪に加わり、女房役の谷繁とハイタッチ。割れんばかりの笑顔で喜びを爆発させた。

 「久しぶりに勝ててうれしい。相手はエースだし、森さんからも『1、2点の勝負だぞ』と言われていたので、絶対に先にマウンドを降りたくなかった。低めに投げて打たせることだけを考えて投げました」

 4月10日の広島戦以来、約1カ月ぶりの今季3勝目は圧巻の出来だった。立ち上がりから3者連続三振を奪い、終わってみれば自己最多の13奪三振。128球を投げ、被安打4、無四球での今季2度目の完封だ。毎回試合を作りながらも、なかなか白星に恵まれず「正直もやもやはあった」が「自分の投球をすれば試合は作れる」と、己を信じて投げ続けた。

 最後は気迫が勝った。「高校以来だった」という延長10回のマウンド。2死から、外角へのこん身の143キロ直球を投げ込み、吉村のバットが空を切ると、力いっぱい右手こぶしをグラブにぶつけた。「途中からは球のキレとかじゃなくて、気持ちで投げた。長打力のある打者が多いので『ホームランはアカン』と自分に言い聞かせていた」。これで奪三振はリーグ2位の51個。だが「僕は三振を狙うような投手じゃないし、たまたま。それよりも無四球だったのがうれしい」と、持ち味のコントロールがさえ渡ったことを喜んだ。

 負けられない理由があった。アメリカで夢をかなえた16歳年上の大先輩、高橋健(メッツ)のメジャー昇格に刺激を受けていた。「同じトヨタ(自動車)の先輩ですし、陰ながら応援してますよ。40歳になって夢を実現させているわけですからね。すごいですよ」。単身渡った異国の地でマイナーから必死にはい上がった姿に自身を重ね合わせ、モチベーションを高めていた。

 この日の好投で、防御率は1・65に浮上。安定感は増すばかりだ。そして次からは交流戦。「きょうの勝ちがチームの勢いになれば」。三浦との投げ合いを制した自信を胸に、交流戦でも白星を重ねていく。【福岡吉央】

 [2009年5月16日10時45分

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