<巨人4-1広島>◇2日◇東京ドーム

 巨人にまた育成選手出身の新戦力だ。ウィルフィン・オビスポ投手(24)が、初先発で広島相手に6回2/3を1失点の見事な投球をみせ、初勝利を挙げた。育成選手出身の投手が先発で勝ったのは初めて。「不思議ちゃん」といわれるオビスポの“奇襲先発”だったが、見事な成長をみせて、巨人は苦手広島に勝ち越した。これで、3日からの中日との3連戦(ナゴヤドーム)に、主力3本柱を投入して、突き放しに行く。

 観客のどよめきが“奇襲先発”の衝撃度を物語っていた。3年目のオビスポに訪れた絶好のチャンス。プロ初の真っさらなマウンドに、心をときめかせた。「こういう機会を与えられて、緊張よりもうれしかった」。孤高の仕事場で小躍りするように腕を振った。

 悩んだ末の秘密兵器の投入だった。交流戦前まで先発ローテは5人。通常ならゴンザレスだった。だが、勢いに乗る中日戦を前にローテを再編。原監督、投手コーチが相談し、数日前に起用を決めた。翌日の先発投手は前日は早めに球場を引き揚げるが、異例のブルペン待機。この日も、中継ぎ陣と同じ調整で相手を惑わせた。

 相手先発は天敵のルイス。実績は劣っても、正々堂々と立ち向かった。「自分の持ち味の真っすぐで攻める」と、試合前の誓い通りに直球で押しまくった。112球のうち、81球が直球。最速は152キロをマークし、150キロ以上を18度計測した。マウンドから右打者の打席に向かうようにインステップに足を踏み出しながら、長い腕を振り下ろす。予測不能な軌道が、打者には恐怖心を与えた。

 07年の宮崎キャンプだった。当時オビスポはレッズ傘下に所属していたが、残留を求めたレッズに対し、巨人のテスト参加を強く希望した。「あらゆる可能性を探して、頑張りたいんだ。日本で力を試してみたい」と並々ならぬ覚悟で海を渡った。入団後も2度育成枠を経験。培ったハングリー精神は財産になった。

 毎オフ、トランクいっぱいに荷物を詰め込み帰国する。グラブ、スパイク…。チームメートからもらった野球道具を、母国ドミニカ共和国の後輩たちにプレゼントするためだ。陽気なドミニカンには心優しい一面がある。試合後、感謝を述べたい相手を聞かれ「すべての人に感謝している。でも、1人挙げるとすれば『小谷投手コーチ』」と日本語で答えた。3年間で学んだのは、野球道と日本人の心だった。

 “不思議ちゃん”な一面も、この男の魅力だ。球場を去る時、東京ドーム名物のモナカアイスを口いっぱいにほおばりながらタクシーに乗り込んだ。マウンドでの頼もしい姿からは想像できない、子供のような無邪気な笑顔だった。原監督は「ルイスという素晴らしいスターターと投げ合って勝った。チームとしても大きな1勝です」と絶賛した。3日からは3位中日との3連戦。ゴンザレス、グライシンガー、内海の3本柱を投入し、追撃を断ち切る。【久保賢吾】

 [2009年7月3日8時23分

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