<ヤクルト8-2中日>◇9日◇神宮

 中日井端弘和内野手(34)が74試合目で初めてセ・リーグ打率トップに立った。ヤクルト先発館山に3打席凡退後、8回の第4打席で右前打。打率を3割3分2厘に下げたが、この日無安打で3割3分1厘に落とした巨人坂本を1厘差でかわした。ただし、チームは2連敗で11カードぶりのカード負け越しが決定。2位ヤクルトに2差、首位巨人に6・5差と離された。

 井端らしいヒットだった。8回、ヤクルト館山の外角ストレートを右前にはじき返した。6点差の場面で出たシングル。勝敗に影響はなかったが、この1本で巨人坂本を抜いて今季初めて打率トップに立ったのだ。

 井端と坂本。神宮と東京ドーム。都内に近接する両球場で首位打者をめぐる静かな攻防があった。前日のヤクルト戦中に一瞬だけ首トップとなった井端だが、坂本が最終打席でサヨナラ本塁打を放ったため1厘差の2位でこの日を迎えた。井端は4打数1安打に抑えられたが、坂本は3打数無安打に終わった。3割3分2厘。差はわずか1厘だが、しぶとく1本出した井端が原巨人の若武者を抜き去った。

 「まだ先は長いですよ」。井端はポツリと言った。チームとともに開幕直後から打率トップを独走していた坂本に対し、キャンプ途中で離脱した井端は4月を2割7分7厘で終えた。しかし、1番に定着した5月から打率を上げ始めると74試合目で逆転。ただ、井端は今後のデッドヒートを予告した。

 じつは試合前、1厘差の両者は互いを認め合う発言をしていた。東京ドームで坂本が言った。「井端さんと比べられることが、おかしいです。実力が違いますから」。これを神宮で伝え聞いた井端は「ぷっ」と吹き出すと、真顔で言った。

 「バッティングセンスは向こうの方が上ですよ。すごいセンスしてる。球界を代表する選手です。彼のおかげで僕も頑張れる」。

 5年連続ゴールデングラブの名手は、遊撃手として守りで負ける気はしない。ただ、打撃センスについては14歳下の相手を「向こうの方が上」と断言した。同じ1番・遊撃手。プロ12年目の井端にとって、可能性に満ちた坂本は己の能力を引き出してくれる発奮材料なのだ。

 チームは苦手館山に完投を許して昨季から6連敗。「どのボールも一級品だからチャンスは多くない。しかも自信を持って投げてくる」。それでも井端は最後の1本に手応えを感じた。「もう今年だけで3回やったわけだし、そろそろ攻略しないといけないと思っている。きょう1本出せたのは次につながる」。“館山ショック”を振り払って再出発するしかない。チームを引っ張るのは首位打者・井端だ。【鈴木忠平】

 [2009年7月10日11時11分

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