<ヤクルト5-9阪神>◇17日◇神宮

 神宮が燃えた!

 真弓明信監督(57)が燃えた!

 5点リードの4回、内野ゴロで平野恵一外野手(31)が一塁ヘッドスライディング。ワンプレーに「命をかけている」と言った男はアウトの判定を不服としてヘルメットをたたきつけ「侮辱行為」で退場。怒った真弓監督ら首脳陣がベンチを飛び出し、帽子をたたきつけた和田打撃コーチが「暴力行為」で退場となった。1試合で2人が退場する阪神史上4度目の荒れた展開となったが、怒りの12安打9得点でヤクルトを粉砕。首位巨人に1・5差に迫った。

 巨人追撃への情念が、ほとばしった。4回表2死三塁。平野の二ゴロは微妙な判定でアウトになった。思わずヘルメットを地面にたたきつける。笠原一塁塁審が右手を突き上げた。退場!

 その瞬間、ベンチから次々と飛び出す姿があった。

 岡野手チーフコーチが先頭を切って走り、真弓監督、木戸ヘッドコーチら首脳陣総出で一塁ベース付近に向かった。「あんなんで、退場になるんか!」。数分間、審判団と口論になった。このとき、和田打撃コーチも退場処分を受けた。同審判員の胸を突き、暴力行為を働いたという理由だった。阪神では02年の星野監督、田淵チーフ打撃コーチ以来、球団史上4度目の1試合複数退場劇だった。

 阪神にとっては、正念場の一戦だった。巨人3連戦の初戦を延長12回の末に落とし、2戦連続で雨天中止。前夜は拙攻で接戦を落とした。この日負けていれば、2カ月ぶりの3連敗。巨人追撃どころか、3位中日に迫られる恐れもあった。同審判員は13日の巨人戦(甲子園)で藤川俊の捕球を巡って抗議したばかりという因縁もあった。

 試合は序盤から大量リードの展開だったが、1点でも多く得点するのが、今年のチームの目指すところ。平野がセーフなら、ダメ押し点が入っていた。抗議の場面、真弓監督も鋭い眼光で声を荒らげた。「微妙(な判定)というよりも、あれぐらいで退場というのもね」。就任以来、指揮官はここというときにしか抗議に行かない。「判定が覆るわけでもない」と冷静なベンチで見つめることが多かった。この日は、荒々しい表情で勝利への執念をあらわにした。

 首脳陣とナインが闘争心をむき出しにして、ヤクルトに流れを渡さなかった。打っては12安打9得点。4点リードで迎えた9回裏2死一、三塁では、守護神の藤川を投入。石橋をたたいてでも、白星をつかみとろうとした。真弓監督は興奮気味に振り返った。「試合中はみんな集中しているし、興奮している。ああいうことは出てくる。絶対に落とせない試合だった」。退場直後に左翼奥のクラブハウスで勝利を見守った平野は、チーム全員に声をかけて回った。「僕は1球に命をかけてやっている。チームに迷惑をかけてしまったのは申し訳ない。和田コーチには、申し訳ない気持ちと感謝の気持ちがある」。

 8年ぶりの退場劇で大荒れの雰囲気が神宮を包んだが、3連敗を阻止。首位巨人が負けて、ゲーム差は1・5に縮まった。猛暑の到来とともに、真弓阪神も熱くなる。

 [2010年7月18日12時2分

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