<ロッテ1-5楽天>◇13日◇QVCマリン

 楽天は主砲の1発が飛び出し、開幕2連勝を決めた。山崎武司内野手(42)が、ロッテ2回戦(QVCマリン)で1点リードの7回、今季1号3ランを放った。終盤に飛び出した貴重な本塁打で、ダメを押した。山崎にとっては中日時代からの恩師、星野監督に勝利を届ける1発となった。楽天の開幕連勝は09年以来2度目。この年は2位に入り、クライマックスシリーズ(CS)へ出場した。「底力」を見せたい特別なシーズンは、順調に滑り出した。

 あの人の叫びが聞こえてきた。「いけぇぇぇ~~!!」。闘将の野太い声がとどろいた。1点リードの7回2死二、三塁。星野監督直々の“指令”に、山崎は「よお聞こえるわ」と発奮した。ロッテ伊藤の初球、外のスライダーを見送り1ボール。「スライダー1本。根拠はないが、直球はない」とヤマを張った2球目、真ん中にドンピシャの同じ球。「しばいたろう」の気迫が、監督の叫びとシンクロした。ボールは瞬く間に左翼席で跳ねた。

 1周しベンチ最前列で指揮官と両手でバシッ。次の瞬間にガツン!

 力いっぱい頭をはたかれた。愛情詰まった一撃に「ぐらっときた。昔と一緒だ」。でも「監督が喜ぶと僕らもうれしい」。顔は笑っていた。

 本塁打は3月15日の横浜との練習試合以来。球界屈指の長距離砲も、1カ月ぶりの出来事に「忘れていた。イメージがなかった」と打ち明けた。それまで3打席凡退。前日は見逃し三振2つと「内容は良くない」。それでも「とにかく自分のスイングを」と徹し、勝負どころで真価を見せた。

 空にアーチ。感覚を取り戻す儀式を行っていた。開幕2日前のフリー打撃。「詰まってもいい。全部、入れる」と宣言し、ひたすら引っ張った。「去年より確実に飛ばない」統一球が無人の左翼席を鳴らし続けた。鬼の形相の理由は「気持ちを高める。不安を取り払う。これまでは大相撲トーナメント。明後日からはオレの本場所だ」。そこには、覚悟がある。「ベテランの特権でオープン戦はうまく乗り切ればいいという。でも、開幕すればケガしてもいいつもりでやる」。

 人生、ガチンコ勝負。25年目の今季、ダメならユニホームを脱ぐと自ら徳俵に足をかける。ギラギラした勝負心を抱き、同時に愛すべき人たちへ深い思いやりを注ぐ。8日に宮城の避難所を訪れ「人生観が変わった」。第2の故郷の惨状に「あれを見て何も思わないのは人間じゃない」とまで言った。「連勝は仙台にも届いたかな。被災された方に『頑張ります』と言ったのに、負けたら『なんじゃ?』と思われちゃう。明日も勝って勇気づけたい」と開幕3連勝を誓った。

 主砲の働きに、星野監督は「あまり期待してないやつが3ラン打つんだからな」と喜んだ。試合後、山崎は監督の前を小走りで移動バスに乗り込んだ。「毎日があっという間に終わるよ」。42歳にして、純な野球少年のようだった。その後ろ姿を、星野監督はほほ笑みをたたえ見送った。【古川真弥】