<広島4-7阪神>◇28日◇富山

 阪神平野恵一内野手(32)が小さな体を震わせた。「チョーさん、打つよ」。そう誓った5回の満塁機で涙のタイムリーを放った。初回にはセンターへの大飛球で超ファインプレーを見せ、勝利への気迫をにじませていた。喪章をつけて臨んだ特別な夜。必勝を期して臨んだ真弓監督も、弔い星をかみしめた。

 必死に誓った。心から祈った。打席に向かう平野がつぶやいた。「チョーさん、打つよ。打つから」。この日の朝、突然天国に旅立ってしまったチーフスコアラーに誓いを立てた。

 5回無死満塁。粘って粘って、執念でヒットをひねり出した。カウント1-1から平野は6球ファウルを打った。直球に、フォークに、スライダーに食らいついた。9球目。福井が根負けしたかのようにフォークが少し甘く入ってきた。それを、どんぴしゃりでとらえて右翼前へ。4点目の走者を迎え入れ、一塁ベース上に立った背番号5は目元をそっと押さえた。

 「信じられない。つらいです。一塁ではヤバかったですね。チョーさんが打たせてくれました。絶対打てると思っていました」。試合後も平野は人目もはばからず涙を流した。

 ナインの気持ちを代弁していた。チームを陰で支える裏方稼業を象徴する存在だった。試合前のミーティングで、試合中のベンチ内で、試合後のスコアラー室で。いつも対戦相手のデータを十分にそろえ、助言を授けてきた。選手はみな、渡辺さんを頼った。

 真弓監督にとっても大きな1勝だった。「こういうときこそ、しっかり勝ってもらいたい」。ホテル出発前の全員ミーティングで選手を前に力を込め、喪章をつけて戦った。

 渡辺さんは79年に阪神に入団した。真弓監督がクラウンライターから阪神に移籍してきたのも同じ79年だ。「ちょっと力が入りすぎたかなと思ったけど勝ててよかった。急だったので本当にショックです。温厚ですごく真面目で、一生懸命にやってくれた」。

 監督、コーチ、選手、球団関係者…。みんなが同じ思いで戦った。そして勝った。“初モノ”に弱かった阪神が広島福井を攻略しての快勝だ。今季、初めて対戦する投手が先発した試合は1勝7敗、4連敗中だった。スコアラー陣の調査報告をもとに入念な対策を立て、悪いジンクスを打破してみせた。

 北陸路で突如起こった悲劇。だが、悲しんでばかりはいられない。これからも勝ち続け、そして秋に最高の報告をするために、虎は走り続ける。【柏原誠】