後のない状況を楽しむような余裕があった。日本シリーズ第6戦の先発が予想される中日の大黒柱・吉見一起投手(27)はいつも通りだった。18日、福岡ヤフードームの練習でダッシュや強めのキャッチボールをこなした。その後はシーズン中と同じように、お気に入りの遊撃の位置に入りフリー打撃の打球を処理した。最後は投手陣の練習用具をベンチ裏まで運ぶ気遣いをみせた。

 帰りのバスに乗り込む際には「頑張ります。頑張るだけです」。その後の質問には口にチャックをするように肩にかけたタオルで口元を隠した。言葉が少なくなるのは、いつもの登板前日と同じ。悲愴(ひそう)感はなく、その目には笑みが浮かんでいた。

 集大成のマウンドだ。登板はラスト1試合の見込み。セ・リーグで最多勝、最優秀防御率と2冠を手にし、プロ入り後最高の成績を残した11年シーズンを締めくくる。本拠地で3連敗を喫した17日には、瀬戸際で強力打線と対峙(たいじ)することを「楽しみです」と口にしていた。今季はオフに右肘にメスを入れて出遅れた。復帰後、球威が戻らない中でも投球術を突き詰め、頭脳を駆使して文句なしの結果を残した。最後に手玉に取るのに、これ以上の相手はいない。キッチリと第7戦へバトンをつなぐ。【八反誠】