「センター試験」合格へ猛スパートだ。阪神ドラフト1位ルーキーの伊藤隼太外野手(22=慶大)が26日、1人居残って2度の特打を敢行した。この日予定されていた中日とのオープン戦は雨天中止。きょうは紅白戦が行われるが、キャンプは残り3日。開幕まであと1カ月。合格通知を受け取るため、全精力を傾けてライバルたちを置き去りにしてみせる。

 見つめていた練習補助のアルバイトたち15人が、あきらめたように1人、2人としゃがみ込んでいった。立っているのもキツい。終わらない。終わる気配すら感じない。その数392球。四方をネットに囲まれた打撃スペースが白球の水玉模様に変わっていた。

 終了は午後5時20分。約1時間も宜野座ドームを独り占めした。ライバルの俊介、田上に最年少の中谷もとっくに帰っていた。閑散としたドーム内でほぼ休むことなく、マシンから規則的に繰り出されるボールと対峙(たいじ)し続けた。

 「集中?

 今日は時間もありましたし。今日は今日でいい練習ができたのでよかったです」

 涼しい顔で答えた。並の新人ではない。実はこれがおかわり特打だった。その前にもフリー打撃と合わせて300球近くを打っていた。1日の最後に約400球を連続で振り続ける体力、そして集中力はズバ抜けている。7割以上が芯を食ってライナーと化した。

 やるべきことが分かっている。キャンプ当初から和田監督らに指摘され、取り組んできたトップの位置を深くして振りにいくフォームを固めている。プロ仕様のフォームづくりは二転三転していたが、この日は1つの打法に固定して打ち続けた。グリップを頭の後ろまでグイッと深く入れることで、スイングと打球に力強さが出てきた。

 キャンプは残り3日。半日練習の最終日をのぞけば純粋な練習日は最後だった。ドラ1を追い立てる理由はもちろん、激しさきわまるセンター争い。内野から参戦中の大和が打撃で結果を残している。実績がある俊介や左肩故障から復帰を目指す柴田、それに田上と候補はめじろ押し。4人は伊藤隼よりも俊足で、守備の勝負では分が悪い。打撃を磨くことがレギュラー切符への絶対条件になる。

 今日27日は紅白戦、28日はオープン戦横浜戦(宜野湾)と2試合が待つ。同じ外野のマートンが開幕まで「全試合」出場を志願したように、若手のアピールチャンスは多くない。

 慶大時代も1日素振り1000本を日課とし、練習前にハードなウエートトレを積み、アマ球界を代表する打者に上り詰めた。決して天才ではない。「努力に勝る天才なし」。伊藤隼の好きな言葉だ。全身を支配する疲労感は必ず実を結ぶ。そう信じて、自分にムチを入れ続ける。【柏原誠】