<ヤクルト2-4阪神>◇12日◇松山

 逆転への扉は4番のバットがこじあけた。8回、阪神マット・マートン外野手(31)が右前に意地の同点打を放ち、新井のVランを呼び込んだ。4回、本塁クロスプレーで捕手・田中雅に猛然とタックル。相手ベンチは色めきたち、6回の打席では背中を通過するボール球を投げ込まれた。報復行為とも受け取られかねない1球に、助っ人はバットでやり返した。

 チャンスに燃えた。マートンが、逆転勝利の導火線となる同点適時打を放った。1点を追う8回無死、一塁に鳥谷を置いて打席に入ると、ヤクルト2番手松岡の7球目に鳥谷が二盗。すかさず8球目のフォークボールを右前へ運んだ。新井の決勝アーチを誘発する貴重な一打となった。

 激動のゲームだった。1回無死満塁では、痛烈な打球が二塁手正面を突き併殺に倒れ、絶好の先制機を逃した。さらに1点を先制された直後の4回には、四球で出塁し、1死一、三塁から藤井彰の中飛でタッチアップ。本塁へ激走した。中継された返球とは、セーフかアウトか微妙なタイミング。思わず、体ごと捕手田中雅にぶつかっていた。判定はアウト。だが、タックルを受けた形で倒れた捕手は負傷し、5回から交代を強いられた。

 マートン

 分かってほしいのは、決して相手をケガさせようとしてやったんじゃないということ。なんとか点を取りたいと思って、初めてああいう形で当たりに行ったが、彼(田中雅)が大丈夫なことを願っている。

 昨季、同じような場面でホームに滑り込み、膝を痛めた経験があることから、スライディングを避けたという。

 6回の打席では、逆に危険な投球に遭った。八木が初球に、マートンの背中側を通るボールを投じた。本塁突入をラフプレーと受け取ったヤクルトに“報復で狙われた”とも思える球に、一瞬、色をなした助っ人だが、すぐに冷静さを取り戻し3球目を鮮やかにセンター前へはじき返した。試合後は「それは相手に聞いてほしい。審判もなぜ警告を出さなかったのかな」と話した。

 「母の日」だったこの日、マートンはステファニー夫人に頼んで、自分と夫人のそれぞれの母親にギフトカードをプレゼントした。「たぶん、お花も一緒に贈っていると思うよ」。心優しい助っ人の、勝利を求めるからこその肉弾プレー。和田監督は「切り替えてというか、頭をクリアにして打席に集中してくれたね」とたたえた。すべてにバットで答えを出してみせた。【高垣誠】