<日本ハム5-1広島>◇15日◇札幌ドーム

 日本ハム大谷翔平投手(18)が、プロ初の「3番右翼」でフル出場し、勝ち越しシーンを演出した。1-1で迎えた8回1死一塁の第4打席で、広島前田健から左中間へ二塁打を放ち、稲葉の決勝二塁打につなげた。前の3打席では完全に抑え込まれていたが、球界を代表する右腕からの貴重な一打で、チームを本拠地連勝に導いた。

 潔く腹をくくり、ラストチャンスにかけた。大谷の目が据わった。口を真一文字にきつく結ぶ。1-1の8回1死一塁。18歳のけなげな使命感は、極限まで沸騰していた。前3打席、もてあそばれた前田健との4度目の対決だった。「最初は打てないかな、と思った。今まで見たことないくらい、速かった。総合力が高い」。白旗を上げそうになる心を奮い立たせた。

 気合十分で待った初球。けん制2球を挟まれ、じらされた。カウント1ボール1ストライク。外角高め、見逃せばボールゾーンに、チェンジアップが抜けた。バットの真芯を合わせる。「今まで打ったヒットを思い出した」と、天性のセンスを生かした逆らわない打撃を披露した。左中間へライナーで運び、俊足を生かして二塁まで陥れた。二、三塁とチャンスを広げ、中田の敬遠で満塁。「つなげられて、良かった」と、稲葉の決勝2点二塁打を演出する、会心の仕事だった。

 非凡さが、結集されていた。試合前にスコアラーからはチェンジアップは捨てろ、と指示が出ていた。前田健の左打者への決め球の1つ。大谷はやや苦手とする内角を攻められる可能性が高く、そこを狙うとの戦略が提示されていた。1回の第1打席はそのチェンジアップで空振り三振。3回の第2打席は打ち合わせ通り、5球連続内角を突かれたが仕留め切れなかった。最後はスローカーブで裏をかかれ、ほぼ真ん中で見逃し三振を喫した。

 洗礼を浴びたマエケンへ、「打者・大谷」が土壇場で力強い所信表明だ。4打席目に前田健が珍しく制球ミスしたチェンジアップを逃さなかった。「たまたま高く浮いたので、しっかり打てました」と、才能と内容が詰まった1打席だった。プロ入り初の「3番」抜てきで、お膳立てされた一戦でまた輝いた。起用が的中した栗山監督は「大事なところでしっかりつかまえることができる、彼の対応力の高さ」と褒めちぎった。18日には同じ広島相手に敵地で先発し、打席にも立つ。二刀流の夢をまた膨らませ、大谷はたくましく道を切り開いていく。【高山通史】

 ▼大谷が初めて先発3番で出場。3番で先発出場した高卒新人は93年松井(巨人)以来、20年ぶり。松井は9月12日阪神戦で初めて3番に座り、1年目に3番で25試合に出場した。パ・リーグの高卒新人3番は86年清原(西武)以来で、日本ハムでは東映時代の59年張本以来だ。清原は3番16試合、4番4試合、5番18試合とクリーンアップで38試合、張本は3番3試合、4番78試合、5番7試合とクリーンアップで88試合に出場した。これで大谷は1、3、5、6、7、8番と6つの打順で先発した。