<中日0-4ヤクルト>◇6日◇ナゴヤドーム

 ヤクルトの「ライアン」こと、小川泰弘投手(23)が今季2度目の完封でリーグトップの9勝目を挙げた。8安打を許し、7回には無死満塁、9回には無死一、二塁のピンチを招いたが、落ち着いた投球で切り抜けて自身4連勝。負ければ今季最多の借金16というチームの危機を救った。セ・リーグのルーキーの2完封は10年ぶり。新人らしからぬ「変わらない」投球で勝ち続けている。

 ピンチでもヤクルト小川は顔色ひとつ変えない。7回無死満塁。4点リードしているとはいえ失点すれば交代だ。マウンドにできた円陣の中、自分のリードでピンチを招いたと感じていた捕手中村が「ゴメン」というと「オッケー」と、いつものように答えた。ここから前夜4打点の平田をフォークで三振、谷繁と井端をシュートで打ち取った。それでもグラブをポンとたたいただけで引き揚げた。9回も無死一、二塁。ここから和田を中飛、平田を遊ゴロ併殺に仕留めてゲームセット。中村と抱き合った時だけ、ちょっと笑った。

 小川が並みの新人と違うのは、何も変わらないところだ。4月の初登板からこの日まで球威が落ちていない。試合の中でも1回から9回までほとんど同じだ。初登板からほとんどの試合でマスクをかぶった中村が実感している。「普通、ルーキーは夏場に落ちてくる。あんなに足を上げているのに変わらない。すごいことです」と驚きを隠さない。

 なぜ変わらないのか。先輩のエース石川が感心するのは体の手入れだ。「例えばストレッチとか。簡単なようで続けるのは難しいんです。ま、いっかっておろそかになりがちなんですよ。僕が若いときは小川ほどできなかった」。手抜きすることなくストレッチを続けて、大リーグ通算324勝のノーラン・ライアンを参考にした豪快なフォームを維持している。

 スタンドで見ていた母弘子さん(59)は心の強さを感じてきた。「小さい頃から変わらないのは、弱音を吐かないことですね。今が踏ん張り時だ!

 って言って頑張ってきた」と話す。「グラウンドの上では1年目などは関係ない」と気後れするところがないから、ピンチでもポーカーフェースでいられる。

 愛知・田原市から駆け付けた両親、親戚や友人ら約40人の応援団に最高の投球を見せることができた。もちろんうれしいが、小川は淡々としていた。「みんなが来ても、オールスターに選ばれてもいつも通りです。気持ちを変えちゃいけない」。それが信念だ。ベストの投球をすることだけに集中する。それが結果的には周囲を喜ばせることになると思うからだ。「両親あっての野球人生です」。感謝の気持ちをいっぱい込めて、新人離れした度胸で低迷するチームを支え続けていく。【矢後洋一】

 ▼小川が今季2度目の完封で9勝目。新人投手が2度以上の完封勝ちは08年大場(ソフトバンク)以来で、セ・リーグでは03年木佐貫(巨人)以来、10年ぶり。ヤクルトの新人では93年伊藤が4度完封して以来だ。小川は6月15日オリックス戦から4連勝。それまで得点圏に走者を背負った場面の小川は61打数16安打で被打率2割6分2厘だったが、この4試合は25打数1安打で被打率4分。この日も7回の無死満塁を0点に抑えるなど、ピンチに強くなり4連勝した。粘りが出た小川が、次回登板で99年上原(巨人)以来となる新人投手のセ・リーグ10勝一番乗りに挑戦する。