<DeNA1-10阪神>◇3日◇横浜

 投のヒーローが白仁田なら、打線でもイキのいい男が千金弾を放った。プロ5年目の阪神上本博紀内野手(27)だ。4回に通算5号となる今季1号3ランを左翼席にぶちかました。今季左足首の故障に悩んだ男が、光を放ち始めた。

 173センチ、63キロ、小さな強打者がバットを振り抜いた。3点リードの4回。上本がDeNA三浦のスライダーに反応した。快音を残した打球は左翼スタンドに飛び込んだ。勝負を決める1号3ランだった。

 「入るとは思わなかったです。ケガしていたこととかは別に…。次の打席があるので切り替えてと思いました。ポーズ?

 恥ずかしかったですね」

 ケガで苦しんだ半年間の思いは、胸の内に隠したが、指揮官の期待に応える大仕事だった。西岡が1日の広島戦で負傷し、欠場した。代役のリードオフマンに指名されたのは上本だった。3回には強烈に引っ張って左前へ運んだ。そして、本塁打も左翼へ。水谷チーフ打撃コーチが「あいつは引っ張る力がある。右打ちなんて考えんでええんや」という武器を発揮した。

 1軍定着を期待された今季、開幕直前に悪夢が襲った。2月26日、WBC日本代表との壮行試合、遊撃を守っていた上本は打球を追って、左翼伊藤隼と激突した。倒れたまま動けない上本が担架で運ばれていく様は悲劇そのものだった。左足首の前距腓靱帯(ぜんきょひじんたい)損傷。期待に満ちたシーズンは、リハビリの日々へと変わった。

 2軍でのリハビリ中、トレーナーからは向こう1週間の予定しか伝えられなかったという。1軍で、チームに貢献したい。その思いが強すぎるあまり、無理をしてしまうからだった。それでも、上本の熱い思いは止められなかった。

 実戦復帰を数日後に控えた8月11日、実は禁止されていたスライディングの練習を試みた。手綱を引き、ブレーキをかけてもなお、前に進んでいく。人知れず、鳴尾浜の土に刻まれたスライディング痕は上本の情熱そのものだった。

 「元気な姿を見せて、それが恩返しになれば、と思います」

 支えてくれたスタッフ、周囲の人への感謝。最後にちらっと、苦しかったリハビリに思いをはせた。上本のシーズンはまだまだ、これからだ。【鈴木忠平】