<日本ハム0-5楽天>◇23日◇札幌ドーム

 空を舞った。純な思いを込め、193センチが飛んだ。日本ハム大谷翔平投手(19)の切な願いが爆発した。逆転不能なムード漂う最終9回。無得点、5点の大量ビハインドを追っていた。1死二塁。必死にバットに当てた打球が、高いバウンドで三塁前へ弾む。凡打でも、全力疾走を敢行。約3メートル手前で、踏み切った。低空飛行し、一塁ベースへ両腕を伸ばした。セーフ。失策を誘いチャンスを広げた。逆転勝利も、零封負けも阻止できなかった。19歳のけなげな責任感だけは形にした。

 プロ入り初のヘッドスライディング。「無意識でした。1点でも取れればいいと思った」。チーム方針では自重されているプレーを繰り出した。一塁を駆け抜けた方がスピードが殺されず、効果的であること。故障を誘発しやすいことから“禁じ手”とされている。投手だけに、さらに重みがある。試合後にはコーチから厳重注意を受けたが、衝動を抑えられなかった。「翔平がそういう風にする空気がある」。栗山監督が理解を示すほどの終戦ムードを象徴する、1シーンだった。

 今季より8試合少ない136試合制だった05年と単純比較できないが、札幌ドームへ本拠地移転後、最多タイの71敗目を喫した。借金も今季ワーストを更新する11まで膨らんだ。シーズン勝ち越しも、この1敗で消滅した。「罵声(ばせい)を浴びせられるのは当然。それを力に変えていかないといけない」。まだ前を向ける指揮官がいる。現状を突き破ろうと、たった1つのアウトを拒み、肉体を駆使したルーキーがいる。1年間のゴールへの見通しは真っ暗だが、まだファンの胸を打つ瞬間はある。【高山通史】