将来の巨人監督としての下地が積み上げられた。松井秀喜臨時コーチ(39)は宮崎キャンプ最終日の13日、約2週間の指導を終えた。教えることに対する責任感を感じる一方で、12年ぶりに古巣の選手、首脳陣と触れ合い、距離感を縮めた。将来、正式な指導者として球団に戻る時に、糧となる時間を送った。

 松井コーチは最後までグラウンドを離れなかった。1軍キャンプ打ち上げの手締め後も、2軍の練習を静かに見つめた。「(指導は)楽しい感覚じゃない。必ず教える側の責任がある」。任を受けたなら、見届ける義務がある。最後は期待の逸材、大田の打撃練習を見守り、午後3時すぎ、ようやく臨時コーチの肩書を下ろした。「後輩の選手のいろいろな部分をじっくり見られて、有意義な時間だった」と、うなずいた。

 プロ人生初の本格的指導。最初は慎重だった。選手の技術と才能を見極め、徐々に助言を送った。「込み入ったことを教えるより、基本的なこと、シンプルなことが大事だということを伝えられれば」。限られた時間で教えることには限度もある。指導した選手が変化を見せた瞬間もあるが、「一進一退ある。ガラッと変わることはありえない。少しずついい方向に向かえば」と成果を求めるのは時期尚早とした。

 貴重な時間を選手とともに送ったのは間違いない。12年も日本球界から離れ、名前とプレーが一致する選手は少なかった。だが主力に1000球を超える球数を打撃投手として投げ、首脳陣から無名の若手を紹介され、少しずつ距離感は縮まった。坂口が自ら指導を仰ぎ、前日12日の講話では育成選手の柴田が質問をした。松井コーチの経験をみんなが欲してくれた。

 巨人に帰る気持ちはまだ固まっていない。だが巨人愛は深まった。

 松井コーチ

 今までもOBとして巨人は愛するチームだった。でも、あまり関わり合うことのなかった選手と触れ合うことができた。今までは(かつての)チームメートを中心に見ていたが、これからは全選手を見るのが楽しみ。2軍の結果を見るのも楽しみ。そういう楽しみが増えた。

 12年ぶりに宮崎で過ごした日々は将来、指揮官として帰ってきた時の下地になる。【広重竜太郎】<松井コーチの今キャンプ>

 ◆打撃投手

 練習11日間で9日間に登板。「ぶっ壊れるまで投げるよ」と力強い宣言通り、阿部、高橋由、坂本、村田らに計1024球を投げた。

 ◆フリー打撃実演

 9日のランチ中に首脳陣、選手が見守る中でフリー打撃に臨んだ。22スイングで5発のサク越え。打撃投手を務めた阿部を「音がすごかった」と驚嘆させた。

 ◆講話

 12日に1、2軍選手を前に約30分の講義を行った。ヤンキース時代にトーリ監督から「ブルーカラーの選手だ」と言われた話を披露。星稜高の後輩、高木京に「ブルーカラーとは?」と聞き「青色です」と答えると「全然違う。毎日文句を言わずに働く人のことだ」とツッコミを入れ、爆笑も誘った。