<日本ハム2-1ロッテ>◇17日◇札幌ドーム

 選手会長が“人生初”の劇的な1発で試合を決めた。日本ハム大野奨太捕手(27)が同点の11回、左翼へプロ初のサヨナラ本塁打を放った。2、4、8回と3度の得点機で走者を返せなかったが、最後に大仕事を果たし、今季3度目のサヨナラ勝ちへ導いた。チームは今季2度目の5連勝で貯金2とし、交流戦前の勝ち越しを決めた。

 一瞬の静寂を、勝利の放物線が切り裂いた。11回1死。大野のバットから甲高い打球音が響いた。左翼へグングン伸びる打球。ファンは息をのんで見守り、次第に確信し、歓声がこだました。サヨナラ本塁打だ。「最高に気持ちよかったです」。本塁には三塁ベンチを駆けだしたチームメートが待っていた。まっ先に飛び出した中田からヘルメットをポーンと投げられた。みんなに頭をポンポンたたかれた。水もかけられた。そんな手荒い祝福も心地よかった。

 延長にもつれ込んだ責任を感じていた。9回までに3度の得点機で決定的な仕事ができなかった。「チャンスをつぶしていたのは僕。浦野に勝ちを付けられなかったのは僕の責任。何とか自分で決められて良かった」。サヨナラの一打は「記憶にない」。積み重ねた悔しさを糧に、人生初の大仕事をやり遂げた。

 純真無垢(むく)な声が、早期復帰への原動力になった。今季は2月の春季キャンプ中の実戦で左足首を捻挫。急ピッチで開幕に間に合わせた。リハビリ中は2軍本拠地の千葉・鎌ケ谷の「勇翔寮」にいた。札幌にいる家族とは離ればなれ。3歳になる長女も心配していたという。「電話で話したら『パパ、びょういん?』って。何のことか分かっていないと思うんですけどね」。会えなくても、気持ちがうれしかった。

 だから、わらにもすがる思いだった。毎年オフに訪れる鳥取のジム「ワールドウイング」にも連絡し、患部の回復方法を探った。できることは何でもやった。今も痛みは残るが、自分のために尽力してくれた人への感謝が体を突き動かす。「1つでも多く、恩返しができれば」との思いが劇的勝利につながった。栗山監督も「気持ちみたいなものを感じた」とたたえた。果たすべき責務の重さを感じながら、選手会長はチームを引っぱっていく。【木下大輔】