<ヤクルト4-4日本ハム>◇28日◇神宮

 意気消沈の三塁側ベンチに再び息吹を吹き込んだ。日本ハム北篤外野手(25)が、値千金のプロ初本塁打で敗色濃厚のチームを救った。1点を追う9回先頭で代打で登場。初球の137キロ直球を左翼スタンドへ運んだ。「打った感触も覚えてない」。大興奮のメモリアル弾で延長引き分けに持ち込んだ。

 苦節8年目。06年ドラフト1位で横浜(現DeNA)に投手として入団。右肘の故障もあり、2年目のオフに野手に転向した。元投手として心揺さぶられる試合展開だった。投打「二刀流」の大谷が先発し熱投。打線が8回に一時逆転も、その裏に自身と同じく投手から野手に転向したヤクルト雄平の同点10号ソロなどで再逆転されていた。数々の発奮材料を手に、大仕事をやってのけた。

 家族の後押しがあった。1度も1軍に上がれなかった移籍1年目の昨オフ。石川・小松市に住む父周二さん(60)から連絡があった。「今年は帰ってこなくていい」。昨年4月、北家にとって初めての男の孫となる長男が誕生。父は孫に会いたい気持ちを抑え、息子を自主トレに専念させた。「やらなきゃいけないですよね」。今季は開幕前の実戦で3本塁打と長打力をアピール。開幕1軍をもぎ取り「とりあえず、残ったよ」。すぐに父に電話報告。飛躍を誓った。

 チームは今季初の引き分けに終わった。「負けを消したと言ったら変ですけど…勝って喜びたかった」。北は節目を勝利で飾れず苦笑いも、充実の表情で球場を後にした。【木下大輔】