<巨人7-6中日>◇5日◇東京ドーム

 ザ・千金打だ。巨人長野久義外野手(29)が、6-6の延長10回1死二塁、左中間を破るサヨナラ適時打を放った。一塁が空いている上に、カウントは3-0。迷いなくバットを振り抜き、終盤もつれた接戦にけりをつけた。貯金は今季最多の14。2位広島との差を3・5とした。

 長野だからバットを出せた。10回1死二塁。中日のルーキー又吉が制球に苦しんでいる。ボールが3球続いた。「きた球を振ろうと。変化球でも何でも」と、外寄りへ入ったスライダーを強振した。「黄色いドリンクをかけられて…」と涙目でお立ち台へ直行。「ベンチから『思いっきりいけ』と言われていたので」とクールに振り返った。

 1球待ってもいい場面だった。一塁は空いていた。後続は阿部、ロペス。併殺狙いに切り替え、既に2安打を放っていた長野は勝負を避けられてもおかしくなかった。3ボールから打って、安打なら天国、凡退すれば非難の的だった。「気楽に打席に入れた」と振り返ったが、超積極的な長野ならではの大勝負だった。

 原監督から「竹を割ったようなバッティング」と褒められた。一方で、川相ヘッドコーチは「よく狙い打ちした」と言った。橋上打撃コーチも「変化球を打った。集中、積極性と、読みがあった」と言った。イチかバチか、の見立てとは違った。

 大胆と繊細。人間性が詰まった一振りだった。食事の席では裏方に徹し、カラオケでは自分から決してマイクを握らない。主役を張ったのは、入団1年目の10年1月だけ。内海ら先輩から初めて食事に誘われた。「まずは僕が歌わせてもらいます!」とマイクを握った。熱唱…、と思いきやおもむろに、先端を外した。あっけにとられる面々をよそに、ただの棒状と化したマイクで熱唱。「こんな新人、見たことない」と、一気にその場を持っていった。

 場を的確に読み、迷わず実行する。4-4の8回は2点二塁打を放ち、7回は中前打で出塁し、代打高橋由の3ランで生還。試合終盤での価値ある3安打3打点。そしてカウント3-0からの決勝打。「勝負に関わることなので言えない。谷繁さんですから」と、舞台裏をひた隠して引き揚げた。技術はもちろん、器のでかさで局面を制した。【栗田尚樹】

 ▼長野が13年8月29日阪神戦以来、自身4本目のサヨナラ安打を放った。サヨナラ安打はカウント3-0からで、これで3-0からの長野はプロ通算10打数5安打、打率5割だ。カウント3-0からのサヨナラ安打は珍しく、セ・リーグでは06年10月4日立浪(中日)以来7本目。巨人では85年5月2日松本が阪神戦の9回2死一、三塁の場面で右前打を打って以来、29年ぶりになる。