<DeNA6-12阪神>◇6日◇横浜

 バスまでの道すがら「おい隼太!

 なんでホームラン打ってんねん!」と相手ファンの叫びが聞こえた。1軍公式戦の重みをかみしめ、阪神伊藤隼太外野手(25)はうっすら笑った。復活の一撃は7回1死一塁だった。

 「素直に結果が出てうれしい。自分がアピールしたい最高の形が出た」

 DeNA安部の2球目だった。風も、隼太の打球を後押ししてくれた。右翼席へ、昨年5月8日巨人戦以来の、今季1号2ラン。スタンドインしてもスピードは緩めず、喜び勇んでダイヤモンドを1周した。ベンチ前では頭を何度もたたかれ、お祭り騒ぎになった。

 「正直、久しぶりにスタート(先発)と言われて緊張していた。守備も緊張して1球1球ビクビクしていた」

 長かった。昨年9月21日ヤクルト戦(甲子園)以来のスタメン。その試合では中堅で打球を後逸(記録は三塁打)する大きなミスを犯した。翌22日に出場選手登録を抹消。その2日後。最初の休日だったが、誰もいない鳴尾浜で1人、トレーニングに打ち込んだ。こんな思いを抱えながら-。「目先じゃない。先を見据えて。大観衆の前で守るとき怖さがあった。だから常にあの雰囲気をイメージして練習しないと」。再スタートから「先」にたどり着くまで約9カ月半を要した。もう、あのときの隼太ではない。守備では初回2死一塁で、5番筒香の頭越しへの打球を、フェンスに向きながらキャッチ。そのスタートがあり、後に最高の結果が待っていた。

 「掛布さんのおかげはもちろん。それに、使ってくれた首脳陣のおかげです」

 今春は沖縄・宜野座キャンプスタート。しかし、3月中旬に2軍に合流した。巻き返しを誓った直後、教育リーグで右手甲を負傷し戦線離脱した。復帰後は、結果を残してもなかなか1軍に呼ばれなかった。「決めるのは僕じゃない」。悔しさは内に秘め、「先」があると信じ続けた。

 「普段通りやれ」と送り出された掛布DCへの恩返しの一撃。同時に隼太も長いトンネルから抜け出した。3年目の逆襲へ。5連勝のチームとともに進撃がスタートだ。【松本航】