楽天松井裕樹投手(18)の三振奪取には秘密があった。

 奪三振率(13日現在)は11・20。先発登板時に限っても、10・95と高レベルを維持している。規定投球回数に達していないため、単純比較はできないが、規定到達者の中でリーグ1位のオリックス金子(10・55)や同2位日本ハム大谷(10・53)を上回る。なぜ、プロでも三振を稼ぎ出せるのか。最新機器による動作解析の結果、見えてきたルーキーの「武器」に迫る。

 18歳の青年がたたき出した数値は、専門家の目を見張らすものだった。今年1月、Kスタ宮城(現コボスタ宮城)で、最新動作解析システム「VICON」(ヴァイコン)による測定が行われた。松井裕ら新人を中心に若手投手が参加。上半身の関節15カ所と球4カ所に反射マーカーを張り、近赤外線が照射される中で投球を行った。投球時の関節の動きや、球の回転数などが数値化された。

 測定を指揮した国際武道大体育学部の神事努助教(35)は約500人(うちプロ選手は約70人)を測定してきた実績を持つ。同助教が、まず挙げた松井裕の特徴は「直球の回転軸」だ。

 (1)直球の回転軸

 多くの投手の場合、直球の回転軸は水平に対し約30度、傾いている。傾いた状態のまま、横振りで投げられた球は、捕手に届くまでに左投手なら左(右投手は右)に20~30センチ、ずれるのが一般的。いわゆる、シュート回転が起きる。だが、松井裕は回転軸が水平に近いことが分かった。シュート回転によるずれは約10センチしかなかった。同助教は「直球に、きれいなバックスピンがかかっている」と指摘した。

 理由は、投球フォームにあった。上体を斜めに倒して投げるため、回転軸が水平に近く、さらに縦振りでリリースされる。「過去に測定した500人中、この特徴を持つのは1割だけ。野茂さん、佐々木主浩さん、藤川さんのような伸びのある直球を生む」。スライダーには縦の変化を与える。「横振りのスライダーは横に曲がるが、縦振りの松井選手は縦に落ちる」。

 (2)直球の回転数

 直球の回転数にも特徴があった。プロ選手約70人の平均は、1秒で32回転。松井裕は36・6回転と、4回転以上も多かった。「トップ10に入る多さ。スピンが利いている」と同助教。高スピンが球の伸びを呼び、ホップするような軌道が生まれる。直球はホップするように伸び、スライダーは縦に落ちる。特徴的な軌道が、三振を生み出していると言える。両球種より球速が遅いチェンジアップも効果を増す。

 ただし、同助教は「回転軸が水平で、回転数も多い方が優れている、というわけではない」と強調する。たとえば、傾いた回転軸で投げ、球を動かして打ち取る投手もいる。大事なのは「いかに平均から外れているか」。他と違えば、それだけ打者の目先をそらすことができる。松井裕は、既に人にはない武器を持っていた。【古川真弥】

 ◇松井裕本人は、意識して回転軸を水平にしているわけではなかった。動作解析の結果に「ナチュラルに投げられているのだと思います。(回転数の多さも)何がどうというのはないです。とにかく、きれいなスピンがかかるようなイメージで投げています。きれいに回転すれば、直球が伸びると思うので」と話した。神事助教は「自分で一番投げやすいフォームで投げていると聞いた。体の負担はないと思う」と解説した。

 ◆神事努(じんじ・つとむ)国際武道大体育学部助教。専門はバイオメカニクス。中京大大学院で博士号取得。07年~12年3月まで、国立スポーツ科学センター研究員。ソフトボール日本代表に同行し、上野投手の球の回転の分析などでサポートを行った。12年4月より現職。