<阪神2-1ヤクルト>◇27日◇甲子園

 阪神の甲子園CSが見えてきた。同点の8回2死一、三塁から福留孝介外野手(37)がしぶとく左前に勝ち越し打。前夜の逆転3ランに続く2日連続のV打。9月は打率3割6分1厘、13打点、4本塁打。2年連続5度目の進出を決めたCSでも勝負強い6番の存在は心強い。2位広島に0・5ゲーム差とした。

 勝負の鬼だった。同点の8回、2死からゴメス、マートンがつないで一、三塁。ここで今、最も怖い福留が打席に向かう。相手ベンチは先発石山を諦め、左腕中沢にスイッチ。内角直球を2球ファウルして2ストライク。だが、「バットに当てないことにはね。せっかく、ああいう場面だったし、食らいついていこうと思った」と、心は追い込まれていなかった。

 最後は外角へのスライダー。備えていたかのようにバットを合わせた。白球を遊撃手の頭上へ運んだ。2試合連続の決勝打は、同時にチームの2年連続CS進出を決める一打となった。

 「勝たなきゃ、勝たなきゃというよりも自分がやるべきことをきっちりやる。それしか考えていない」

 なぜ、そんな勝負どころに強いのか-。そう問われ「自分を変えないこと」を第一に挙げた。ただ、もう1つ。抜きんでた勝負強さを支えるのは「洞察力」だろう。

 夕方で混み合う大阪市内の交差点、車で右折しようとした福留が「あそこに警察がいる」とつぶやく。中央分離帯の看板の陰に立っていた警察官は右折車からは死角になっていたがよく見ると、わずかに制服のすそがのぞいていた。買い物に出れば、他人とすれ違いざまに「あの人、さっきもあの店に入ったよね」。

 勝負の場面でさらに研ぎ澄まされる。シーズンオフに知人と競い合うゴルフでは序盤にリードを奪われても、まったく動じずに安全なプレーを選択する。そして相手がミスをした後、「スイング見ていたら、そろそろミスが出ると、思っていたよ」といたずらっぽく舌を出して見せる。

 自分は変わらない。その上で変化する相手の心理、メカニックを見逃さない。だからこそ、土壇場での勝負を制することができる。体とバットをある程度、自分の意思通りに動かせるようになった今、その勝負根性が存分に発揮される。「あと3つ、すべて勝って。自分たちのやれることをやります」。CSへの希望となる男は連夜のお立ち台をこう締めくくった。【鈴木忠平】