これは黄金期の序章だ。就任1年目のソフトバンク後藤芳光球団社長兼オーナー代行(51)は昨オフに総額40億円ともされる大型補強を決行し、3年ぶりの優勝で結実させた。獲得予算は今後も青天井を貫き、5年連続のFA補強も示唆。全国に熱狂的なファンを持つ阪神をモデルとしつつ、巨人V9のようなアンチファンが出る圧倒的な時代を追求する。

 オフの主役が頂点に立った。李大浩やスタンリッジ、サファテら「国内組」の助っ人やFAで中田、鶴岡ら8人。総額40億円ともされ他球団からやっかまれるほどの補強。後藤社長は1年目での優勝となった。

 「補強は成功だったと思う。決めたターゲットは獲得できました。生身の人間がやるビジネスなので、けがや病気はある。層が厚すぎるというわけではない。高いレベルで競争できている」

 青天井と言われる補強で選手層は屈指。開幕時に支配下の日本人57人で年俸総額41億円は巨人と同規模で、外国人扱いとなる選手は7人で約10億円。

 「選手の獲得予算は作るべきではない、青天井でいいと思います。本当に青天井といっても会社がつぶれるような金額にはならないし、歯止めはかかる。言いたいのは必要な選手には必要なマーケットプライスがあり、それを提示するのは当然だと。取ってくる選手だけでなく、今いる選手の年俸もマーケットが決める。非上場会社が上場すると株値がつく。選手がFA権をとるのは選手が上場し、12球団から第三者的評価がつくこと」

 金満球団と批判の声もあるが、これがソフトバンクの身の丈に合ったビジネスで、補強は優勝の対価をもたらした。来年に向けた準備も進む。FA市場をにらみ、有資格者の動向を探っている。

 「必要な選手がいると判断すればいきますよ」

 具体名は出さないが、5年連続FA補強の可能性を否定しない。外国人も投手を中心に調査中だ。一方、16年に福岡・筑後市に新しいファーム施設が完成し、現在の雁の巣から移転。補強と育成。柳田や中村、今宮ら“雁の巣産”も育っている。

 「若手が競争しないといけない。越えなければならないバーが高いほどその人は伸びる。毎年補強したい理由はそこ。だから24時間野球漬けになる環境が必要で、うちのテクノロジーを駆使したシステムもつくりたい。ロッテ唐川のように、うちが打てない投手と同じ球筋を投げるマシン。完全バーチャルならいいクオリティーでできると思う」

 ソフトバンクとなり、10年目。ブランド周知、浸透の段階はとうに過ぎた今、注目するのは、阪神の集客力。

 「どこの球場でもうちのファンが半分になるくらいにしたい。阪神タイガースのビジネスモデルは見習わなければならない。今はファンクラブの充実に力を入れている」

 孫オーナーからはV10指令が出ている。元巨人ファンの後藤社長はアンチの存在が球界を盛り上げると考える。

 「マクロな視点で見るとうちが強くなること。他のチームが打倒ソフトバンク、ファンもアンチ・ソフトバンクになるのです。V9時代は学校にいくと『俺はアンチ巨人だ』と言うわけです。そういうファンが存在したのはすごいこと」

 今年は、ともに過去最高だった昨年の売上高268億円、営業利益65億円を上回るのは確実で、福岡での野球事業は右肩上がり。本当の黄金期を築くことができるのか。球界は元バンカーの手腕を注目している。【取材・構成=押谷謙爾】

 ◆後藤芳光(ごとう・よしみつ)1963年(昭38)2月15日、神奈川県出身。一橋大社会学部卒。87年に安田信託銀行(現みずほ信託銀行)に入社。00年にソフトバンクに入社し、財務部長。06年にボーダフォン(現ソフトバンクモバイル)取締役、12年7月からソフトバンク常務執行役員財務部長。昨年10月に球団社長兼オーナー代行に就任。