東大野球部に夜明けは来るのか―。東京6大学野球リーグ戦で現在、ワーストタイ記録の70連敗中。今日3日の早大戦で、ワースト更新の阻止に挑む。浜田一志監督(49)は「文武両道の最高峰」のプライドを保ち続けるには「勝利が必要」と話す。選手は勉学を効率よくこなし、野球を最優先に生活を送る。野球に懸ける思いは強い。

 

 

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 本郷キャンパスの北の端に東大球場(両翼85メートル、中堅105メートル)はある。授業開始前の午前8時、野球部員は全体練習を開始する。練習時間は正午前まで3時間半。一般の学生たちが厳かな雰囲気で講義を受けている静かな構内に、威勢のよい部員の声が響いた。

 日本最難関に上り詰めた野球部員たちも授業にがんじがらめになっていると思いきや、少し様子が違った。有井祐人主将(工学部4年)は「授業より野球が最優先。東大を目指した理由は東大野球部に入りたかったから。そして、勝たせたいから。うちの全部員が同じ気持ちです」と話す。

 授業履修の段階で工夫しているという。有井主将によると、必修科目は別として、午前中は「出席数が重視される授業よりも、リポート提出でまかなえるような授業を取る」。また試験の結果重視で単位が取得できる授業を狙って科目を選択する。「留年してたら文武両道とは言えない」。東大生としての誇りを胸に締めるところは締める。

 将来は財務省の官僚を目指すという籔博貴マネジャー(法学部4年)は今年、政治学のゼミに入った。野球部に理解がある教授のゼミを選んだが、大学院生も交じって政治哲学書「リヴァイアサン」を英文で読む授業はハイレベルだ。「ある一文を『なぜ、こう表現したのか』を議論する。院生は原文のラテン語を読める人もいる。ついていけないですよ~」と笑う。それでも「予習よりも野球です」と、部の活動を優先している。

 プロや社会人野球に進む部員がいないため、リーグ戦中の4、5月に通常の就職活動もするという。浜田監督は選手時代だった約30年前を振り返り「我々の時は早大さんと五分五分だった。今は必修授業も多いし、就職も難しい。以前の方が野球に集中する環境が整っていた」と話す。しかし「勝ってこその文武両道。そのために今、頑張っている」と加えた。野球に全力を注ぐ東大生。神宮で「TOKYO」のユニホームが歓喜の輪をつくる日を、しっかり見据えている。【三須一紀】

 ◆東大野球部

 1919年(大8)創部。25年に東大が加わって東京6大学野球連盟が誕生。リーグ最高成績は46年春季の2位。昨年秋季まで32季連続最下位でワースト記録を更新中。前回の70連敗も東大で91年春の開幕戦(立大)で止めた。甲子園出場経験者の入部はこれまで22人。新治伸治、井手峻、小林至、遠藤良平、松家卓弘と5人のプロを輩出した。主なOBはNHK「ニュースウオッチ9」キャスターの大越健介氏(8勝27敗)。