中日が大学ナンバーワン左腕の一本釣りに成功した。プロ野球ドラフト会議は28日、都内ホテルで開催。中日は最速151キロ左腕、佛教大・大野雄大投手(22=京都外大西)を1位で単独入札、交渉権を獲得した。関西育ちで阪神ファンだが、すでに心は落合竜の一員。目標の投手にチェンの名を挙げて「阪神キラー」への“転身”を宣言した。左肩故障で今秋のリーグ戦を棒に振ったが、来年2月のキャンプに万全の状態で臨み、開幕1軍を目指す。

 1位指名の入札が始まって11球団目。中日が自分の名前を挙げると、大野の顔が一気に華やいだ。直後、菊野義朗監督の携帯電話に担当の米村スカウトから指名あいさつの連絡が入った。電話を譲り受け、耳に当てたまま頭を下げた。

 「まさか1位で、それも単独で…、まさか自分が…。中日さんはセ・リーグの優勝チーム。すごくうれしいです」。笑いが隠せない。最速151キロの快速サウスポーとはいえ、今秋の京滋リーグは「左肩棘下筋(きょくかきん)炎症」のため、登板機会はゼロ…。そんなマイナス材料を踏まえた上で1位評価してくれたことを感謝した。

 実は子どものころから阪神ファンだ。生まれも育ちも関西とあって「できれば阪神で…」と淡い夢を抱いてきた。藤川球児の大ファンで、超満員の甲子園で、タテジマのユニホームを着て快投する…。「ヒーローインタビューになったら、どんなことを言おうかな」。そんな“妄想”まで頭にあった。しかし、未練はない。「もう好きなタイガースを含めて11球団は全部敵。“阪神キラー”になりたいです。冗談ですけど、阪神ファンに『もうやめて』と言われるぐらい…」。虎党から虎キラーへ。笑顔で劇的な転身を誓った。

 プロの厳しさは覚悟している。まして中日は猛練習に加え、投手陣は質量ともに日本一を誇る「王国」。左腕も先発の山本昌、チェン、セットアッパー高橋、守護神岩瀬と球界を代表する顔ぶれが並ぶ。「本当に厳しい印象。落合監督も厳しそうな方。今のままの意識ではすぐダメになると思う」。一方で自信もみせた。「そんな厳しさの中でやっていけば、僕は同世代の中でも1番になる能力を持っていると思っています」。世に言う「斎藤世代」を「大野世代」に変える意気込みも十分だ。

 目標とするのはチェン。「ボールの質、球筋。僕とは全然違う。どうやったらあんな球が投げられるのか聞いてみたい」。左肩の状態も、医者の診断では軽症という。今後は来年2月のキャンプ、開幕1軍に向けてリハビリ等に全力を注ぐ。「目標としては先発ローテーションを目指したい」。30日開幕の日本シリーズ観戦も熱望した。心は早くも竜の一員だった。【加藤裕一】