赤星と一緒に歓喜の美酒を-。阪神新井貴浩内野手(32)が11日、兵庫・西宮市内の球団事務所で契約更改に臨み、07年オフに結んだ4年契約に基づき、現状維持の年俸2億円プラス出来高でサインした。移籍3年目となる来季は「優勝して、全国のタイガースファンと大騒ぎしたい」と力強く宣言。9日に電撃引退を表明した同学年の赤星憲広外野手(33)を招き、ビールかけをする瞬間まで思い描いた。

 初めて白球を握った少年のように、新井の表情は澄み切っていた。個人記録よりも、ただ勝ちたい―。「とにかく移籍3年目になりますし、優勝したい。優勝してビールかけをして、全国のタイガースファンと大騒ぎしたい」。背筋を伸ばし、一切のブレもない決意表明。ただ、最後に言わずにはいられなかった。「同級生だし、仲も良かった。純粋に赤星とビールかけをしたかった。一緒に優勝したかったな、とはすごく思う」。

 頂点を追い求めて、07年オフに広島からFA移籍。08年は開幕から好調をキープしながら腰の疲労骨折で離脱し、巨人に大逆転劇を許した。09年は「苦しいシーズン」。序盤から絶不調に陥り、チームはCS進出さえも逃した。並々ならぬ決意で臨む10年シーズン。しかし、虎の中心にいるはずの男は、もういない。9日、赤星が電撃の現役引退を表明した。

 「う~ん…。まだ実感がわかない。寂しいばかり。その日に話はしましたけど。(来季、赤星がいない)イメージがわかない。まったくわかない」。

 同じ76年(昭51)度生まれ。FA移籍直後の08年沖縄キャンプでは仲間に早くとけ込めるよう、常に配慮してくれた。「自分のことをしっかりやって、タイガース選手会長としても周りを気遣える」と、妥協なき姿勢に敬意を払っていた。甲子園のロッカールームは2つ隣。首に腰に全身に…、痛みを抱えながらプレーを続ける姿を間近で目に焼きつけてきた。「今年は特にしんどそうだった。この後の人生もある。日常生活に支障をきたしたら、それこそ大変なことになる」。引退―。深刻な状態を把握していたからこそ、無念の決断を尊重するしかなかった。

 「赤星の代わりなんて、できる人はいない」。不動の核弾頭として脅威を与え、選手会長としてもチームをまとめる。絶大な信頼を寄せていた男が去り、自身の責任はさらに大きくなった。幸い、腰の疲労骨折で出遅れた昨オフとは「雲泥の差がある」状態。「すごい順調にきている。打つのも投げるのも走るのも、全部強化したい」と調整に手ごたえを感じている。

 目指すは頂点のみ。その先には夢がある。来季、歓喜のビールかけに赤星を呼んではどうか?

 報道陣の質問に対し、新井は赤星の心中を気遣いながら答えた。「球団と本人がOKしてくれるなら、もちろん一緒にビールかけをしたいという気持ちはあります」。

 OBとなった赤星と初めて歓喜を分かち合う瞬間が、大きなモチベーションの1つになる。【佐井陽介】