<WBC:日本1-3プエルトリコ>◇17日(日本時間18日)◇準決勝◇米サンフランシスコAT&Tパーク

 侍ジャパンのWBC3連覇の夢が破れた。準決勝でプエルトリコに完敗した。1点を返した8回、なおも1死一、二塁から重盗を敢行。一塁走者の内川聖一外野手(30)が飛び出しタッチアウトとなった。山本浩二監督(66)が繰り出した「スモールベースボール」の一手が致命傷になってビッグチャンスを逸し万事休す。曖昧なベンチワークが招いたミスが響いて終戦を迎えた。

 日の丸を世界一の座から降ろした。山本監督が深々と一礼した。三塁側ベンチのフェンスに内川が突っ伏した。「侍」の称号を胸に戦ってきた選手たちは無表情で、プエルトリコの歓喜の輪を目に焼き付けた。試合終了後のロッカー室。指揮官は「笑顔で帰ろう」と締めた。だが、選手も、ファンも受け入れがたいフィナーレになった。有言実行で機動力を絡めた戦略を敢行し、いつまでも後ろ髪をひかれるような大きな失敗が生まれ、終わった。

 かすかな望みを、誰もが捨てた痛恨の一手があった。山本監督の選手の自主性を重んじる信念が、完全に裏目に出た。3点を追う8回、1死から3連打で1点を返した。なお一、二塁で、不動の4番阿部。1ストライクからの2球目だった。二塁走者の井端がスタートを切って、すぐ止まった。井端を追いかけるように一塁走者の内川は猛然と走りだした。帰塁した井端に気付いたのは二塁手前。ぼうぜんとしてタッチアウトとなった。重盗を仕掛けてチャンスがしぼんだ。日本野球を象徴するスモールベースボール。試合の流れや状況を冷静に考えれば、禁じ手ともいえただろう。

 土壇場でブレた。ほかの主力は不振ならば打順を変更した。山本監督がただ1人、「心中する」との覚悟を決めていた阿部が打者だった。ケースに応じた打撃ができる名手だったが、ベンチが局面を動かそうとした。さらに重盗の指示は「ダブルスチールにいってもいい」(同監督)という選手に判断を委ねるようなサイン。「スモール」ではなく大ざっぱで、曖昧で、ギャンブルだった。

 しかも捕手はメジャー屈指の強肩Y・モリーナ。阿部は左打者で、送球の際にブラインドになる右打者ではなく、三塁には投げやすい。さらに重盗では二塁走者がスタートしてから一塁走者が走るため、三塁でなく二塁に投げてくるケースもあり内川にも重圧がかかる。追撃する場面とはいえリスクが大きかった。

 代償は大きい。結果論だが、選手がすべてを背負い込んでしまうような采配だった。内川は「僕の1プレーで終わってしまった。やってはいけないことをしてしまいました」と涙をこらえ、自分を責めた。井端は「『いけたら、いけ』だったので…」と言葉を詰まらせた。俊足ではない井端が適時打を放って出塁した時点で、代走要員の本多を投入する選択肢も残っていた。走者同士の呼吸がマッチするかも微妙だった。山本監督は「私は、この作戦に悔いはありません」と断言した。だが、策とは言えないほど緻密さに欠けていた。

 日本のスモールベースボールが勝負どころで崩壊した。山本監督は「非常に素晴らしい選手とできて、私は幸せでした」と、どっぷり感慨に浸ったが、苦い敗戦を忘れてはいけない。井端や内川ら、ガムシャラに局面を打開しようと挑戦し、全力で支えようとした侍たちが、傷ついたことは忘れてはいけない。突出した精巧さが魅力の日本野球が世界に誇るイメージを崩したことも、忘れてはいけない。また、日本中が野球で夢を見られる日が来るためにも-。【高山通史】