18日に東京・八芳園で行われた格闘技イベント「EXECUTIVE FIGHT~武士道」に出場しました。開始1分、左ハイキックをさく裂させKO勝利。これでデビュー戦から5戦5勝。4KO。先月16日には念願のRISEのリングに立たせて頂き、そこから1カ月で今回の大会でした。

正直、プロのリングに立ったあと、1カ月でまた試合を迎えるモチベーションのコントロールが非常に難しかったです。2月のRISE FIGHT CLUBでは1R1分50秒でのKOだったのでほぼノーダメージではありましたが、想像以上に緊張していた自分の精神は完全に疲労していました。

心疲労は肉体疲労とは違ってただ時間を置いて休めばいいというものではありません。僕の場合は特に時間を空ければあけるほど、次の試合が迫ってきます。ノーダメージだったからといって翌日から練習はできません。僕は1週間のオフをもらい、まずは肉体疲労を回復させるように努めました。

1週間が過ぎて肉体疲労はかなり回復してきましたが、心疲労は何を持って回復なのかがわかりません。3月18日に試合があることを考えると、これ以上は休めないと考え、練習に復帰しました。

ありがたいことに、3月18日の試合は-75キロ以下のトーナメントになっています。昨年末に初戦を勝ち抜き、今回は準決勝でした。人生でチャンピオンベルトを巻けることなど、そう簡単に訪れることではないので、この機会を絶対につかみ取りたいと思っていました。それが僕のモチベーションとなり、心疲労はどこかでワクワクへと変わっていきました。

この時に思ったことは、どんなことでも視点を変えると意識が変わる。意識が変われば心はワクワクする。そんなことを思いました。多くの人が会社や家族、友人関係で悩み、苦しんでいる事があると思います。そんな時にこそ、どこに視点を持っていくかはとても大切です。毎日の業務や、やらなければならない事に視点を置けば、明日がくることを拒否するでしょう。

しかし、少し先の未来に目を向けて、自分から何か違う角度の視点を持てば、業務や強制ではない本来の自分が触れたいワクワクの片りんが見えるときがあります。僕の場合はそれがチャンピオンベルトという「憧れ」だったのだと思います。

団体競技をやってきた僕にとって、個人でチャンピオンになるという憧れはかないませんでした。MVPや得点王など個人で取れる賞も僕には無縁でした。小さい頃からヒーローに憧れ、チャンピオンベルトを変身ベルトのように見ていたのかも知れません。チャンピオンになれたら、あのベルトを巻けたら、自分が何者にかなれる気がしていました。それはきっと弱い自分を受け入れ、戦う支えになるものだと感じていたのだと思います。

僕にとって格闘技は弱くて逃げ出しそうなダサい自分を逃げ場のないリングで裸にされ、「さあどうする」と本性を曝け出させる最高の手段です。そこで鍛え上げられた精神こそ、今のこの停滞感あふれる現代に必要なものと感じています。2月16日にプロの舞台に立ち、KO勝利を収めましたが、それはもはや過去のことです。気がつけば、周りの目は今までとは変わっていきます。勝って当たり前、倒して当たり前、魅了して当たり前…。プロとはそういうものだと思いますが、僕にはまだその余裕はありません。少しでも余裕を見せれば隙ができます。隙ができれば、相手に入る隙間を与えてしまいます。そうなれば何が起きてもおかしくないのがリングの上です。

全力で今まで通り。見栄えが悪くても、多少カッコ悪くても、僕がここまで来れた理由のひとつに「必死に全力」があります。それをなしに自分を語ることはできないので、今回の試合も調整が大変だったこととか、試合と試合の間が1カ月しかなかったことなど、言い訳にするわけにはいきません。この1試合だけを見るのでなく、その先に続くワクワクする未来を見据えて、全力で戦うこと。変に格好いい試合しようとしたりせず、素のままのファイティングスタイルで挑めば、必ず結果はついてくると信じて、やり切りました。それが開始50秒でのKO勝利に繋がったと思っています。

もっと長く見たいと言ってくれる人はいますが、余裕は慢心となり、気がつけばリングに沈んでいるには自分となります。これはなんでもそうだと思いますが、「やれる時にやる」この精神がなければチャンスを失います。そして失っただけでなく、そのチャンスがライバルの元へと転がります。

全ての責任は自分の中にある。他人のせいにしたり、環境にせいにしたり、自分以外に何かに目を向けているうちは、自分の人生の当事者にはなれません。「EXECUTIVE FIGHT~武士道」を通して、その精神を学び、RISEというプロのリングで責任とプレッシャーを学び、RIZINを目指すことで公言する大切さと言霊を学んでいます。

叫び、唱え、行動すれば必ずその道はひらけます。「44歳の悪あがき」はここから加速していきます。人生は何事も始めるのに遅いことはない。即行動をするものだけがそのチャンスをつかみ取れる。僕はそう信じて、これからもEXECUTIVE FIGHT出身としてRISEとRIZINのリングを目指し続けます。その生き様から、人生って自分で決めて自分で変えられるんだと感じ取ってもらえたらうれしいです。

3、2、1、バモー!(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「元年俸120円Jリーガー安彦考真のリアルアンサー」)

◆安彦考真(あびこ・たかまさ)1978年(昭53)2月1日、神奈川県生まれ。高校3年時に単身ブラジルへ渡り、19歳で地元クラブとプロ契約を結んだが開幕直前のけがもあり、帰国。03年に引退するも17年夏に39歳で再びプロ入りを志し、18年3月に練習生を経てJ2水戸と40歳でプロ契約。出場機会を得られず19年にJ3YS横浜に移籍。同年開幕戦の鳥取戦に41歳1カ月9日で途中出場し、ジーコの持つJリーグ最年長初出場記録(40歳2カ月13日)を更新。20年限りで現役を引退し、格闘家転向を表明。同年12月には初の著書「おっさんJリーガーが年俸120円でも最高に幸福なわけ」(小学館)を出版。オンラインサロン「Team ABIKO」も開設。21年4月に格闘技イベント「EXECUTIVE FIGHT 武士道」で格闘家デビュー。初戦、8月27日の第2回大会と2戦連続でKO勝利し、12月10日の第3回大会も判定勝ちで3連勝中。22年2月16日にRISEでプロデビューし、初勝利を挙げた。175センチ、74キロ。