ヴィーガン(完全菜食主義者)になって2年。5歳から悩まされていた花粉症が改善され、ほぼ戦わなくてよくなった。

僕は2020年3月18日からヴィーガンになった。今でもこの日のことは鮮明に覚えている。2018年に40歳でJリーガーになり、10代、20代の猛者たちと毎日しのぎを削り、必死に食らいついていく日々が続いていた。気がつけば身体は疲弊し、悲鳴を上げていた。

2019年シーズンはJリーグ最年長デビューを果たすものの、けがの連続で、思うように力が発揮できなかった。そして毎度くるこの春の季節の花粉症。1月の終わりには症状が出始め、3月は目を開けるのがやっと、呼吸をするのがやっと。本当に苦しい毎日を送る季節となる。僕にとって花見は地獄の時間だ(笑い)

そんな状態だから、けがを治すことにも花粉症が邪魔をしてエネルギーを回復に全て向けられない現状があった。2019年の後半は肩を脱臼し、膝をけがして、ふくらはぎは肉離れ、内転筋も痛めた。練習もろくにできない状態に本当に悩まされた。あらゆるトレーナーに体を診てもらい、さまざまな角度でケアを行ったが、けがは一向に治らない。治らないどころか再発はするし、患部を庇って別の部位が悲鳴を上げ、壊れたい放題だった。

そしてそのまま2020年を迎え、僕は契約更新と共に、2020年シーズンを現役ラストと決めて挑んだ。そんな矢先にまたけがを再発させた。このまま1年間走りきれずに終わるのかと思う自分もいた。しかし、諦めたくはなかった。自分から諦めたら全てが終わる。2020年を最後のシーズンと位置付けたなら、その覚悟を自分に問い直し奮起させた。

その時に、とある知人から食事を変えてみないか?とアドバイスを受けた。それがヴィーガン食だった。言葉としてヴィーガンを知ってはいたが、お肉大好きな僕にとっては想像ができなかった。とは言え、今のままでは何も変わらない。今動かないでいつ動くんだ。そう自問自答し、知人にその道の専門家に話を聞きたいとお願いし、先述の3月18日との出会いとなった。

まず初めに食について説明を受け、ヴィーガンについて話を聞いた。僕の中で「なるほど」が連発した。身体の外側(筋肉や皮膚など見えるところ)は気にして必死にケアをしていたが、身体の内側(内臓などの臓器))のことは全く気にすることがなかった。花粉症などのアレルギーについても「体質」だと思い込んでいた。その固定観念が大きく崩れた瞬間だった。

そこから1度体全身のデトックスのために2週間のファスティングを始めた。練習をしながらのファスティングは本当に地獄の日々だったが、自分の体が変わっていくことを実感できた。最初は頭が痛くなり、ストレスでやめたくなったが、それがまさにデトックスだったわけだ。身体が悲鳴を上げていた分、ファスティングには効果があった。

1週間もすると味覚が鋭くなり、水道水などは飲めなくなった。ミネラルウオーターでも自分にとって良い味とそうでない味が明確になった。2週間のファスティングを終え、そこからヴィーガン食に変えると、けがをしていた内転筋のアザが消え、走れる距離も大幅にアップした。

2020年はコロナがまん延し始めた時期で、Jクラブも自宅待機期間があった。その結果Jリーグの開幕も6月になった。自宅待機期間が明け、体力測定が行われた。多くのJクラブが取り入れている方法で、その測定は行われる。恥ずかしながら当初の僕は、プロアスリートの基準値となる数値を大きく下回っていた。

いざ、その測定がスタートすると驚くべき結果が出た。1年前に測った距離の倍以上の距離を走ることができ、プロアスリートの基準値を大きく上回った。チームでも下から2番目だった記録が、真ん中より上位に近い記録となった。これは確実に食事を変えたからである。自宅待機期間に体力強化はできない。変わったのは動物性タンパク質を一切やめ、小麦やカフェインもやめた。植物性タンパク質だけをとり、白米から玄米に変えて、時間をかけてゆっくり食事することを心がけた。その結果、胃腸に状態が良くなった。便秘が治り、きれいな排便ができるようになった。

それと同時に、5歳から悩まされていた花粉症がほぼなくなった。くしゃみをしたり、目がかゆくなったりすることが全くなくなった訳ではないが、当時の僕に比べれば、もう何のストレスもない状態にまでなった。これは動物性タンパク質が僕の体には合わなかったということが大きな原因だった。

食べたものが排せつされるまでの時間は個人差もあるが食後24~72時間と言われている。その中で、口に入れたものは胃に2~3時間滞在するが、お肉や天ぷらなどの脂肪分の多い食べ物は4~5時間滞在すると言われている。僕にはその実感があった。

お肉を食べた次の日は気だるさがずっと残っている感覚。食べ物はそこから小腸にいき、そこで5~8時間、そのあと大腸へと向かい、そこで15~20時間かけて徐々に固形化され、便になる。これらを考えても、常に内臓は稼働していることがわかる。荷解きの途中で次から次へと荷物が届くとストレスになるし置き場も無くなる。それと同じ現象だと考えるとイメージしやすいだろう。

僕らは目で見えるものしか認識しようとしていないので、筋肉や食べ物には気を使うが、内臓という目に見えないところにも感覚を研ぎ澄ませ、自分に合った食を摂ることが大事だと感じることができた。アレルギーのほとんどが腸内環境と密接の関係にある。2021年から格闘家に転身し、2022年2月には44歳でRISEのリングでプロデビューもできた。

毎日3時間、厳しい練習に耐え抜き、肉体強化できているのは「食」に気を使い、自分にとって何が合っていて、何が合っていないのかを調べ抜いているからだと思う。その中で僕にとってヴィーガンであること、オーガニックであることは非常に重要なのだ。

固定観念を外していま一度自分にとって何が大事で、身体は何を求めているかしっかりと声を聞こう。肉体や内臓にも意思がある。その意思を無視することなく、ちゃんと受け止めることで改善できるアレルギーや慢性疲労はきっとある。僕は身を持ってそれを証明していく。内臓疲労の改善で体調は大きく変わる。(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「元年俸120円Jリーガー安彦考真のリアルアンサー」)

◆安彦考真(あびこ・たかまさ)1978年(昭53)2月1日、神奈川県生まれ。高校3年時に単身ブラジルへ渡り、19歳で地元クラブとプロ契約を結んだが開幕直前のけがもあり、帰国。03年に引退するも17年夏に39歳で再びプロ入りを志し、18年3月に練習生を経てJ2水戸と40歳でプロ契約。出場機会を得られず19年にJ3YS横浜に移籍。同年開幕戦の鳥取戦に41歳1カ月9日で途中出場し、ジーコの持つJリーグ最年長初出場記録(40歳2カ月13日)を更新。20年限りで現役を引退し、格闘家転向を表明。同年12月には初の著書「おっさんJリーガーが年俸120円でも最高に幸福なわけ」(小学館)を出版。オンラインサロン「Team ABIKO」も開設。21年4月にアマチュア格闘技イベント「EXECUTIVE FIGHT 武士道」で格闘家デビューし、同大会4連勝中。22年2月16日にRISEでプロデビューし、初勝利を挙げた。175センチ、74キロ。