それは「寿以輝コール」だった。プロボクサー辰吉寿以輝(18=大阪帝拳)が4月16日、大阪府立体育会館でプロデビュー戦に臨んだ。スーパーバンタム級ノンタイトル4回戦で、岩谷忠男(31=神拳阪神)を3度倒して2回KO勝ち。パンチの強さ、チャンスに畳みかける勝負根性、そしてちょっぴり甘いディフェンスに観客は大興奮。会場で自然にわき起こったのは「寿以輝コール」だった。

 記者はてっきり「辰吉コール」がよみがえるものだと思っていた。会場には父丈一郎を応援していたファンたちが集結しており、試合中にコールをかける準備もしていたという。だが「寿以輝コール」を始めたのは、その一団ではない。寿以輝が通った中学校の同級生たちが「寿以輝!」「寿以輝!」と連呼して、その声が会場全体に波及し、コールになったという。

 寿以輝は、リング上からコールを始めた中学時代の友達の顔が見えたという。デビュー戦は無我夢中になる選手が多いが、相手セコンドが岩谷に出した指示も聞こえて、自分がダウンを奪ったパンチや試合内容もはっきり覚えている。試合直後は「緊張して、がちがちだった」と振り返っていたが、案外、冷静だったのかもしれない。

 寿以輝がリングに立てば、これからも「寿以輝コール」が響くだろう。希代のカリスマボクサー丈一郎が浴びた「辰吉コール」ではない。そんなコールの違いに、新しい時代の訪れを感じた。【益田一弘】