武藤敬司が社長を務めるレッスル1(W-1)に、注目のレスラーがいる。黒潮“イケメン”二郎(23)だ。リングネームに「イケメン」とつけるのも気恥ずかしい感じがするが、本人はいたってまじめに、イケメンをやっている。

 自前のジャケットに手鏡を持って、福山雅治のHELLOの音楽に乗って入場。黒潮が登場すると、場内は一気にボルテージが上がり、ファンと黒潮が一体となった独特の空間を作り出す。征矢、KAI、河野、TAJIRIら個性派ぞろいの団体の中でも、徐々にその存在感が増している。

 リングネームは、東京・竹ノ塚で鍋料理店「黒潮」を経営する父、樋口二朗さん(52)にちなんでつけた。プロレス入りは、父親と親交のあるTAJIRIの紹介でハッスルの練習生になったのがきっかけ。1度はあきらめて、定時制高校を4年で卒業し、就職も決まっていたが「やりたくない仕事に就くくらいなら、プロレスラーをやってみよう」と、再びTAJIRIに相談し、SMASHに入団。11年12月にデビューした。

 現在のスタイルも、TAJIRIに「イケメンやってみろ」と言われて始めたという。TAJIRIは、ウエストサイドストーリーのイメージだったが、黒潮はTAJIRIに黙って自分のスタイルをあみだした。最初は父親のスーツを借り、女子レスラーから手鏡を借りた。タッグ戦で、コーナーで控えているときも、試合そっちのけで手鏡で顔を見る姿が、ファンに大受け。W-1に移籍してからも、ファンをつかんでいった。

 「お客さんに覚えてもらわないと話が進まない。ジャケットを着て試合しようということになった。とにかく入場で引きつけて、試合は好き放題やった」と黒潮はいう。現在着用のジャケットはすべて自前。日暮里のスーツ専門店で1着10万円というジャケットを5着も所有している。ファンに笑われても、「プロレスをなめるな」と批判されても、レスラーとしては不利になるジャケットをあえて着て戦い続ける。

 そんな黒潮の素質に目をつけた船木誠勝から、肉体改造の指導も受けた。好きな酒を断ち、1日6時間の猛特訓も行った。180センチ、82キロというきゃしゃ体だが、最近では、主力のヘビー級レスラーとも戦える実力をつけてきた。6月18日には、武藤敬司とシングル初対戦も実現。力では遠く及ばなかったが、リング上では、武藤以上に声援を浴びた。

 「今後の課題は、メーンで戦える肉体をつくること。イケメン改造計画です」と、武藤に敗れたあと、黒潮は真剣な表情で話していた。それでも、重量級と戦うには不利になるジャケットを脱ぐ気はない。最近は、「ジャケッツ」と称する新ユニットも結成。中之上、吉岡とともに、リーダー格として勢力拡大を目指す。イケメンを自負するだけに、野望もある。「週刊プロレスやゴングだけじゃなく、イケメン雑誌で表紙を飾ること。ファッション誌のモデルとして活動の幅を広げたい」。プロレス界の“イケメン”に注目だ。【プロレス担当=桝田朗】