ボクシングの採点基準は有効打、攻勢、防御、ペース支配の4つある。醍醐味はダウンを奪うKO。世界初挑戦で判定負けした村田諒太(31=帝拳)の話題はいまだ続くが、4回にダウンを奪うなど有効打では圧倒した。相手は5回に腰砕け、7回も吹っ飛びいずれもロープに救われた。ダウンとしていいダメージだった。一方で受けた有効打は数少ない。どうみても判定負けは疑問だ。

 採点は微妙になると思った人は意外にいて、負けも少数いたようだ。日刊スポーツ判定パンチ数は村田225に対してエンダムは倍以上の464。この手数の差がジャッジによって採点に表れた。最終回のゴング後、エンダム陣営は勝利を確信して喜び、彼らにしてみれば作戦通りだった。

 村田は初回3発は様子見としても、2回以降はもっと手を出し攻めてほしかった。特に終盤4回は勝利を確実にするために。得意の左ボディーは数発。相手が一発KOの右を最後まで警戒。左は固め、右を狙う作戦に徹した。上位経験不足の懸念を吹き飛ばす世界の実力を示したが「手を出せ」の声が飛んだのも事実だった。

 「桜井を思い出した」という人もいた。日本の金メダリストの世界挑戦は東京五輪の桜井孝雄以来2人目だった。桜井は22連勝でファイティング原田から王座を奪ったローズに挑戦。2回にダウンを奪ってリードも、終盤消極的になって15回判定負けした。

 一方でエンダムも驚異的だった。2敗は世界戦で4度と6度のダウンも判定に持ち込んだ。回復力、スタミナ、身体能力の高さには恐れ入った。公開練習ではメニューとインターバルを1分間隔で心拍を高め、ダメージ想定で10秒間クルクル回ってからパンチ、リング内でシャトルラン。独特の練習を精力的にこなしていたのがうなずけた。

 リングの大きさは約5・5メートル以上7・3メートル以内と決められている。契約段階で7・2メートル以上と要求し、自慢のフットワークを使うために広いリングは不可欠だった。ディアス・トレーナーはキューバ人で多くの金メダリストに世界王者3人を指導し、ドクターも帯同していた。

 金メダリストから世界王者は1人もいないという、ミドルの壁の厚さをまた知らされた。これほどボクシングが話題になるのはあの亀田騒動以来だろうが、本来は日本のボクシング史が変わる日のはずだった。業界に意気消沈ムードもあるが、村田は事実を受け入れながらも再挑戦を目指すようだ。今度こそジンクス打破へどう歩んでいくか興味は尽きない。【河合香】