「ヒロムワールド」が面白い。4日の新日本プロレス、ジュニアヘビー級の最強決定戦「ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア」優勝決定戦を制した高橋ヒロム(28)の予知できない言動が加速し、そして魅力的に映る。

ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア優勝決定戦で石森(左)に勢いを付けてからドロップキックを浴びせる髙橋(撮影・小沢裕)
ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア優勝決定戦で石森(左)に勢いを付けてからドロップキックを浴びせる髙橋(撮影・小沢裕)

 突然の話題転換、突拍子もない言動はお手の物なのだが、石森太二との死闘を制した初優勝直後のバックステージでも全くいつもの高橋だった。

 「おーい! 聞こえるか! 2019年の高橋ヒロム。お前も知っていると思うけど、2018年のスーパージュニアはめちゃくちゃ、史上最高に盛り上がったぞ。なあ、2019年の高橋ヒロム! 必ず、越えてみろ!」

 まずは未来の自分へ語りかけてみた。

 「後楽園ホールさん、いつも、いつも、ありがとうね。いつもありがとうね~。分かってる、分かってるよ、ありがとうね」

 次はいきなり会場の柱を触って語りかけた。ベルトにも語りかけるレスラーなので、なにやら生物外の声も聞こえるらしい。

 「最後に1つだけ。知ってるぞ。この会場で、あなたが、あなたが見ていたこと、知っているぞ、イニシャル“K”」

 そして、去り際に残していったのは謎かけ。K…。報道陣はどこかあっけにとられたまま、これが高橋ヒロムだよなとうなずくように見送っていた。

ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア優勝決定戦を制しトロフィーを手に笑顔を見せる髙橋(撮影・小沢裕)
ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア優勝決定戦を制しトロフィーを手に笑顔を見せる髙橋(撮影・小沢裕)

 いままでもそうだった。その予想不可能さにはまる人が続出していると感じる。試合では舌を出し、不気味に笑い、緩慢なようで、時に怒り前面のフルファイト。マイクでも同じ単語の永遠の連呼など異彩を放つが、それは試合外でも同じ。

 今大会の開幕前日の会見では出場16人がそろった都内の明治記念館で、突然「おい! がんばれヒロム!」と叫び始め、必殺技D(変形三角絞め)が開発したいきさつを一人芝居で、脈絡なく説明して他選手とは異なる空気感を発揮。3月のIWGPタッグ王者調印式では自作ポエムを書いたノートを読み上げ、ヒロム色を全開にさせた。今大会も昨年に続き自作の「攻略本」を試合ごとに持参。スケッチブックに手書きの似顔絵や文字は、誰にもまねできない技以外の武器だった。「ジュニアが最高」と公言するが、独自のパフォーマンスは、その愛するジュニア戦線への注目度を集める一助となっている。

 そんな変幻自在の自己プロデュース能力の高さは、予想外の出来事も呼び込むらしい。スーパージュニアを制したリングには「ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン」のメンバーが参集したが、内藤が優勝トロフィーを壊してしまう事態が発生。羽の部分が折れていることに気付いた高橋はがくぜんとして、トロフィーに土下座することになった。「内藤、帰ったのか、あの野郎! 聞いてよ、あの内藤哲也という男は、俺のトロフィーを奪い、そして壊れたことに気付き、俺の耳元で『ごめん、ちょっと壊れた』と俺に渡した。俺はパニックになった。どしたらいいんだと。だったらちょっと笑いに走るしかねえだろ」とバックステージの第一声では猛クレームした。

ベスト・オブ・ザ・スーパージュニアを制した髙橋だったが贈呈されたばかりのトロフィーが壊れ、ぼうぜんとする(撮影・小沢裕)
ベスト・オブ・ザ・スーパージュニアを制した髙橋だったが贈呈されたばかりのトロフィーが壊れ、ぼうぜんとする(撮影・小沢裕)

 冒頭に列挙したコメントはそんな不運に見舞われた後に発した言葉になる。しっかりとアクシデントに言及しながら、自身の世界観はしっかりと表現する。そんな動じない精神性も感じられた出来事だった。

 次は6月9日、大阪大会でIWGPジュニアヘビー級王者ウィル・オスプレイに挑戦表明した。ジュニアを誰よりも愛すると公言する男が、どんな言動をみせてくれるのか注目だ。【阿部健吾】