不思議な試合でした。24日、名古屋市の武田テバオーシャンアリーナで行われたWBO世界フライ級タイトルマッチ。王者田中恒成(24=畑中)の2度目の防衛戦です。

母校の中京学院大中京が今夏の甲子園で印象づけた「ラッキーセブン」よろしく、田中が7回TKOで勝った。ところが、6回までの採点は負けとった。3回に田中がダウンを奪い、4回に奪い返された。それだけ聞けば「一進一退の攻防」となるけど、そうでもない。ジャッジ3者中1人は58-54の4ポイント差、1人は57-55の2ポイント差で挑戦者ゴンサレスがリード。残る1人だけが56-56。採点の流れは明らかにゴンサレス優勢やった。

ちなみに私は4回までイーブン、5、6回は田中と、2ポイント差で田中優勢だった。「ひいき目」と言われたら…そりゃそうだ。そもそも担当歴がまだ2年半。有効打か、手数か。ボクシング自体をわかっていないせいか、そのへんも正直、よくわかりません。

ただ、これだけは言えます。田中の“圧”が、ゴンサレスを終始上回っていた。手数が少なく、空振りも目立って、パンチももらってた。でも、もらっても、浅かった。それって、ゴンサレスが田中の圧力に踏み込み切れてなかったからかもしれません。4回に奪われたダウンも両足がそろった時、軽くもらって、尻もちをついただけに見えた。3回に強烈なボディーで奪ったダウンと明らかに質は違った。

要は田中に感じた圧力が、自分にポイントをつけさせた-。今になって、そう思います。

田中の一夜明け会見のコメントを並べてみます。

「(ポイントは)どうでも良かったです。取られてるのも分かってました」。

「本当に(冗談でなく?)それ(中京学院大中京の7回)もちょっとあって、そろそろ半分に差し掛かってきたし、会長が言ってるように“7回ぐらいに(ギアを)上げよっかな”というのはありました」。

「(コンディション不良は)8月に入って1週間ほど熱を出した。その影響で減量が遅れてのもの。フライ級が目いっぱいで無理ですというより、調整段階でそういう失敗があったんで。まだまだそのへんが甘いですね」。

「試合当日、コンディションが悪いのは明らかにわかっていた。“スピード出ないなあ”と思って(スピード勝負は)入場まで迷ってました。“止めた方がいいな”と思いながら“いや、スピード、スピードって言ってきたしな”と思ったり。“もう(パワーで)押しつぶしちゃおうか”“スピード勝負しようか”と迷って、それでなかなかうまくいかなかった。ま、でも、ギア上げて追い詰めていけば、いつでも倒せるっていう感じはありました」。

…とまあ、こんな具合。「そんなもん、勝った後なら何とでも言えるがな」というツッコミは、ありですが、きっと違います。実際に話を聞いた感じ、彼の過去の言動を踏まえて考えると、偽りや強がりでなく本音です。となると、明らかに劣勢やったボクサーが普通言うセリフではないんですわ、これが。

勝手に迷って、勝手にヘタ打って、勝手に勝負を決めた。WBOフライ級ランキング1位のトップコンテンダー相手にでっせ? 調整に失敗し、公約のスピード勝負ができず、不満だらけのV2戦。実は田中がすご~く強くなってることの証明やったんかもしれん。

ま、次戦ではっきりすると思いますけどね。【加藤裕一】

(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)