3月、米ラスベガスにいるボクシング元WBCスーパーバンタム級暫定王者亀田和毅(28)からうれしい知らせが届いた。妻シルセさん(32)が第1子となる男児を妊娠したという。

「シルセもすごく喜んでます。自分も子どもが欲しかったのでめちゃくちゃうれしいです。シルセのサポートをしながらボクシングもがんばります」

メールの文面から喜びが伝わってきた。

亀田は19年7月にWBCスーパーバンタム正規王者レイ・バルガス(メキシコ)との統一戦で敗退。同11月から米国に拠点を移していた。この4月に再起戦を行う予定だったが、新型コロナウイルスの影響で延期となり、まだ渡航制限のない3月中にシルセさんの故郷メキシコへと移動した。今は自粛生活を送りながら、5月末の出産を待つ。

昨年の統一戦を前に、シルセさんにじっくり話を聞いたことがあった。支え合う2人の物語に心を打たれた。出会ったのは約13年前。中学卒業後すぐメキシコに武者修行に行った亀田が、アマチュアボクサーだったシルセさんと出会い、恋に落ちた。

07年、亀田はアマチュアトーナメント大会の決勝で後の世界王者バルガスと対戦する。会場は、メキシコシティの格闘技の聖地アレナ・メヒコ。大ブーイングを浴び、判定で敗れた。満員の観衆の中、亀田に声援を送るのはシルセさんと、その家族だけだった。

「メキシコだから、みんな地元のバルガスを応援していました。和毅の応援をしていたのは、私のパパ、ママ、兄弟合わせて10人ぐらい。ビール、ナッツ、水…いろんなものが私たちにもかかってきました。和毅の応援をしていたから、みんな怒っていたみたい。すごく怖かった。あの時、和毅は16歳。まだキャリアがなかったから、緊張していたと思います。試合の後は『大丈夫。いいよ、すごく頑張ったよ。最後まで倒れなかったから』と声をかけました。和毅はがっかりしながらも、『勉強になる。がんばる』って言っていました」(シルセさん)

その後、遠距離恋愛を経て、15年10月に結婚。今では亀田はスペイン語を、シルセさんは日本語を自由に使いこなす。結婚後は、主に日本での生活。慣れない場所、言葉、文化の中で、シルセさんは苦労した。だが、メキシコでシルセさんがしたように、今度は亀田と家族が彼女を助けた。

「和毅は、すごく優しい。いつも私のことを気遣ってくれます。私があげれば、和毅も私にくれる。ピンポンみたいだなと思います。日本人とメキシコ人は全然違う。でも、和毅の家族は優しかった。彼らのおかげで日本語が話せるようになりました。2人にとって、言葉をかけ合うことはすごく大切です。1日が終わると、『ありがとう。きょうもがんばったね』とスペイン語で言い合います。ハグも、チューもします。日本に来て、少し恥ずかしくなりましたが(笑い)」(シルセさん)

2人の関係から学ぶことは多い。

亀田によれば、今メキシコは「毎日2000人以上感染していて、ピークの状態」。極力外出せず、家の中で筋トレやシャドーなど練習に励んでいるという。

シルセさんの出産予定日まで約1週間。大変な状況の中、無事2人の子どもが生まれることを祈る。【高場泉穂】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)