昨年大みそかに行われた大一番。年明けからWBO世界スーパーフライ級王者井岡一翔(31=Ambition)のタトゥー問題ばかりクローズアップされ、試合内容そのものがかすんでいることが残念でならない。

世界最速16戦目での4階級制覇を狙った同級1位の田中恒成(25=畑中)が挑戦者。田中は「世代交代」を明言して挑んだ。その結果は2度のダウンを奪われ、8回1分35秒TKO負け。完敗だった。ただ、その内容に悲観する材料は少ない。将来的に田中が素晴らしい王者になる資質を確認した。

両者の実績から大きな注目を集めた。こういう試合ほど「勝ち」に走り、相手の出方を見ながら慎重な試合展開になることも少なくない。しかし、この一戦は期待を大きく上回って打ち合った。挑戦者の田中は、自身の実績をかなぐり捨てて果敢に挑んだ。その結果がダウン。負け知らずで順調に走ってきたキャリアを守らず、純粋に倒しにいった姿勢を評価したい。

試合後は「完敗です。こんなに差があったのかとびっくりしました」と認めた。父の斉トレーナーは「技術的なことは何もしていない。ストロングメニューばかり。いじめ倒した」と言った。ミット打ちとシャドーボクシングだけという単調なメニューを1日20ラウンド。井岡の「経験」を打ち崩すべく、ハードな練習を重ねてきたが、現実は厚い壁に阻まれた。

「悔いはないです。(井岡の力を)認めざるをえない」と潔く敗戦を語った。この経験は間違いなく、田中の将来にプラスに働くはず。勝負事に「負け」はつきもの。その「負け」から何を学ぶか。負け知らずで走ってきた田中は、井岡から多くを学んだ。攻めるだけではない守り、階級を上げた相手の強さ。体に染みこませた経験値は大きい。

殴り合うボクシングは、極論すれば倒すか倒されるか。その醍醐味(だいごみ)を昨年大みそかに見せてくれた。まだ先は長い。「殴られた」経験をどう表現していくのか。無敗ではなくなった田中の今後がより、楽しみになった。【実藤健一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)