ボクシングのエキシビション(スパーリング形式3分3回)マッチのみという新たな試みのイベント、LEGENDが11日に開催された。

メインイベントでは、WBAスーパー・IBF世界バンタム級王者井上尚弥(27=大橋)が、現WBOアジア・パシフィック同級王者で元WBC世界フライ級王者比嘉大吾(25=Ambition)と拳を交えた。世界戦さながらの演出、そして有観客という雰囲気の中、井上は「比嘉選手に気迫を感じました。真剣度100%」と明かした“ガチ対決”でメインを締めた。

「このイベントが、成功で終われたかなと思います」と満足げに井上が振り返ったメインでの比嘉とのスパーリング。1、2回はヘッドギアを装着し、3回は通常の試合さながらにヘッドギアを外してリングで対峙(たいじ)。「自分の距離でなく、比嘉選手の距離でもやろうと思ったし、いろいろな戦いを見せられたらと思ってスパーリングをした。今日は自分の動きにも満足できた、良い出来だったと思います」。

倒しにいくのか、自分の距離を貫いて戦うのか。比嘉の動きに合わせて展開を変化させていたという。体重も試合時のリミット53・5キロよりも重い、62キロ。58キロだった比嘉に対し「スピーディーな動きではないので自分のできるボクシングした」とも明かした。

スパーリング形式のために勝敗はない。しかし観客の前で見せる上で明確な「何か」が必要になる。自ら相手に指名した比嘉と拳を交える上で、自身のハードルを設定していた。「正直、このスパーリングにはメリットがない」と前置きした井上は「比嘉選手はどれだけやれるか。見ている方もそういう見方をすると思うので、ボクはレベルの差をみせなきゃいけない。互角のスパーリングをしたら、自分の評価は保てない。そういった意味で、今日のスパーリングはやり方的にも良い緊張感がありました」と心境を明かした。

そして、程良いピリピリ感の中での手応えは十分だった。「格の違い? 今日は十分にみせられたと思うし、自分はそう思います。あとは見ているか方がどうとられるかだと思います」。

比嘉とのスパーリングは17年以来、約4年ぶりだった。「(比嘉の)パンチは前にスパーリングした時と印象は変わらない。あの頃との距離は縮まっていないのかなと。お互いに成長しているし。その差が自分の中でも縮まっていたらダメで、引き離さないといけない。そういうスパーリングだった」。キッパリと言い切った。

比嘉との約4年ぶりのスパーリングを通じ「自分も余裕をみせられたし、ロープを背負ってもいけると肌で感じました」と振り返った井上。チャリティー、有観客のスパーリング形式という通常のリングとは異なるイベントでも“モンスター”と呼ばれる井上らしさをみせた。

昨年10月、米ラスベガスでジェーソン・モロニー(オーストラリア)に7回KO勝ちして以来の次戦は、IBF世界同級1位マイケル・ダスマリナス(フィリピン)との指名試合が濃厚。19年11月のワールドボクシング・スーパー・シリーズ決勝以来となる有観客試合、国内リングの感触も味わった井上は、21年初戦に向けて気持ちを切り替えることになる。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

終了後の会見で思いを語る井上尚弥(撮影・浅見桂子)
終了後の会見で思いを語る井上尚弥(撮影・浅見桂子)