4月24日に国内で今年初の男子世界戦、WBC世界ライトフライ級タイトルマッチがエディオンアリーナ大阪で行われた。王者寺地拳四朗(29=BMB)と同級1位久田哲也(36=ハラダ)の日本人対決。見どころたっぷりの攻防はフルラウンド、12回を戦い抜いて判定で王者が8度目の防衛に成功した。

コロナ禍の昨年に王者が起こした泥酔騒動で、12月に予定されていたのが延期となったカードだった。試合後、寺地は「いろいろとすみませんでした」と久田に謝罪し、インタビューでは泣きじゃくった。常にクールなイメージが強かっただけに意外だった。それだけ自分がやってしまったこと、多大な迷惑をかけた挑戦者陣営らに対し、とてつもなく重いものを背負っていたことを感じた。

試合前からの模様も含めたこの一戦のドキュメントが、関西テレビで深夜に放送されて、見た。寺地もだが、36歳で2度目の世界戦に挑んだ久田もしっかり追っていた。会場に応援に駆けつけていた奥さんと3人の娘さん。家族の絆、涙はグッとくるものがあった。

魂のこもった戦いだった。2回にダウンを食らった久田は、3回にも「ジャブが刺さって」と左目眼窩(がんか)底を骨折した。それでも残り9ラウンドも立ち続け、戦い抜いた。試合後のインタビューに答える久田の左目は腫れて完全にふさがっていた。視界を奪われても、パンチを振るう。素晴らしいボクサーの本能を感じた。

戦いを終えて、久田は引退を表明した。寺地はあらためて元WBA世界ライトフライ級王者具志堅用高氏が持つ連続防衛の日本記録13回の更新と、他団体のベルトも狙うと宣言した。勝者と敗者の道は分かれても、戦いそのものは拍手喝采でしかない。憎き新型コロナウイルスの影響で興行が制限される中、もやもやを吹き飛ばす戦いに心を打たれた。【実藤健一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

寺地拳四朗に敗れた久田哲也(2021年4月24日撮影)
寺地拳四朗に敗れた久田哲也(2021年4月24日撮影)
久田(右)にボディーを見舞う寺地(2021年4月24日撮影)
久田(右)にボディーを見舞う寺地(2021年4月24日撮影)
2回、久田哲也(左)に右ストレートでダウンを奪う寺地拳四朗(2021年4月24日撮影)
2回、久田哲也(左)に右ストレートでダウンを奪う寺地拳四朗(2021年4月24日撮影)