カネロことサウル・アルバレス(メキシコ)が、スーパーミドル級で3団体統一に成功した。WBAスーパー、WBCにWBOを加えた。会場となったテキサス州アーリントンのAT&Tスタジアムには、7万3126人が詰め掛けた。

米ボクシング史上で屋内での入場者数新記録だった。実に43年ぶり更新で、過去最多は78年のアリ対スピンクスの再戦で、ニューオーリンズのスーパー・ドームで6万3352人。ちなみに世界で有料ではメキシコの約13万人、無料を含めるとフィリピンで32万人超えがあるという。

コロナ禍で国内スポーツは、無観客や入場制限が続く。うらやましい半面、怖さも感じた。多くの観客はマスクをせず、いつも通りの歓声にブーイング。日本とは桁違いでワクチン接種は進むが、感染者数もいまだ万単位なのに。

試合はカネロの快勝だった。パンチ力の違いが明らか。手数からビリー・ジョー・サンダース(英国)が優位採点もあったが、いつ仕留めるかだった。8回に顔面を破壊して戦意不能として病院送りに。眼窩(がんか)底など複数箇所を骨折させた。

30戦全勝で意気込んでいたサンダースだが、右目の周りは腫れて顔には生気なし。コカイン取引やドーピング疑惑などお騒がせのビッグマウス。試合前にちょっと笑わせてくれたのが、一番印象に残った。

リングの大きさについて「まるで電話ボックスだ」と激怒したという。リングは一辺が18フィート(5・18メートル)以上24フィート(7・13メートル)以内と規定されている。ファイターのカネロに対し、サンダースはアウトボクサー。狭いリングで足を封じようというわけだ。

うまいこと言う。今の子どもに通じるかなとも。コロナ禍でテレビ視聴時間が増えたが、ある番組で携帯電話の普及で公衆電話のかけ方を知らない子がいると言っていた。彼らにこの発言は通じないかもしれない。

小さいリングだとしても、作戦のうちでもある。今やそうした行為はあまりないだろうが、以前は公然と実行されたこともあった。あくまで規定のサイズ内でのことだ。勝つための手段である。

ジムで使うリングに規定はない。今はほとんどが規定内だが、明らかに小さいリングもいくつかある。ジム自体の広さが手狭のため、正規にしたくてもできないからだ。

ワタナベジムは81年7月にオープンした。五反田駅前のペンシルビル5階。ジム自体25坪しかなく、リングは規定外の4・5メートルしかなかった。サンドバッグが4本つられていて、もういっぱいいっぱいだった。

普段の練習では、リング内で数人がシャドーやミット打ち。ほとんどが接近戦で足を使うスペースはない。当時ジム2人目の世界挑戦となった吉野弘幸。ブンブン丸と言われた強打のファイターだったが「うちからアウトボクサーは育たない」と断言していた。

ジムは94年に移転して、自社ビルを持った。2フロアあり、リングも5・2メートル四方と規定内となった。そして、05年に内山高志がプロ転向し、6人目にしてジム初の世界王者が誕生。強打を誇ったが足も使えて11度防衛し、その後4人の世界王者も育った。リング同様に国内有数のジムへと拡大した。

カネロ戦のリングの大きさは不明だが、画面からそう小さくは見えなかった。ビッグスタジアムでは、アリーナ席でも約2メートルの差はあまり関係はなさそうだ。豆粒にしか見えないかもしれないが、その場に居合わせ、生を感じることがスポーツの魅力。井上尚弥の東京ドームでの試合が見たいものだ。【河合香】