6月末、キックボクシングK-1の3階級制覇王者武尊(30)が、保持していたスーパーフェザー級王座を返上し、無期限休養を宣言した。同月19日に行われた「THE MATCH 2022」。RISE世界フェザー級王者那須川天心(23)との58キロ契約体重3分3回(延長1回)で、0-5の判定負けを喫した。1回に左カウンターでダウンを喫するなどし、失意の中で“世紀の一戦”を終えていた。

約10年間、最前線を突き進み続けた代償は、肉体や精神に表れていた。特に精神面ではパニック障害、うつ病と診断されるなど大きな支障をきたしていた。それでも「今日から海外で少しの間療養してきます。久しぶりに何も考えずにゆっくり時間を過ごしてまた元気な姿で帰ってきます!」と、将来のリング復帰を見据え、心身の回復に努める意向を示した。

リング上では「ナチュラル・ボーン・クラッシャー(生まれながらの壊し屋)」と呼ばれても、ひとたび降りると“優しいお兄さん”だ。18年に3階級制覇を達成し、唯一無二のキックボクサーになってからも、若手の時から態度は全く変わらなかった。所属するK-1ジム相模大野KREST渡辺雅和代表からは「困っている人がいたら助けてあげるタイプ」と評される。誰に対しても分け隔てない振る舞いは、記者間でも話題になるほどだった。

特に、子供に対してはひとかたならぬ関心を寄せる。保育士になろうと、高校は保育が学べる学校を選んだほど。格闘技も「子供たちに見てほしい」という思いは強く、「THE MATCH」の地上波での放送がなくなると、同じく子供好きの那須川とともに、都内の子供たち200人を自腹で招待した。

芸能界にも広い交友関係を持ち、信頼関係も厚い。ONE OK ROCKのボーカルTakaは「兄」と慕う存在で、SNSに度々登場。自身も中学時代にバンドを組んでいた経験があり、今でもギターやピアノなどの楽器演奏をたしなむ。歌唱力にも定評があり、過去にはテレビ番組「THEカラオケ★バトル」の「芸能界隠れ歌うま王決定戦」にも出演。アグレッシブな試合からは想像もつかない優しい歌声は、武尊のユーチューブチャンネルでも聞くことができる。

格闘家としての強さだけではなく、人間としてもさまざまな魅力と才能にあふれる武尊。地元鳥取の、穏やかな海岸線が続く弓ケ浜の白砂や、明峰・大山(だいせん)の緑のように、こらからもファンに夢を与える唯一無二の存在であり続ける。【勝部晃多】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

THE MATCH 2022 判定勝ちした那須川天(右)は雄たけびを上げる。左は武尊(2022年6月19日撮影)
THE MATCH 2022 判定勝ちした那須川天(右)は雄たけびを上げる。左は武尊(2022年6月19日撮影)
THE MATCH 2022 判定勝ちの那須川(右)は武尊に深々と頭を下げる(2022年6月19日撮影)
THE MATCH 2022 判定勝ちの那須川(右)は武尊に深々と頭を下げる(2022年6月19日撮影)