ボクシングWBO世界スーパーフライ級王者井岡一翔(33=志成)は「オンリーワン」としてのプロ意識を口にする。1階級上で3団体を統一しているWBAスーパー、WBC、IBF世界バンタム級王者井上尚弥(29=大橋)とのボクシングスタイルの違いについて問われても、そこにブレはなかった。

約18年間負けなし、自らも18年大みそかに敗れている元世界4階級制覇王者ドニー・ニエテス(40=フィリピン)との5度目防衛戦が13日に行われ、3-0の判定勝利でリベンジに成功。試合直後の記者会見で、井上とのスタイルの違いについて問われた。井岡は、こう言った。

「それはスタイルがありますから。僕には僕にしかできないスタイルがある。良くも悪くも自分しかできないボクシングがある。それには賛否もあるし、好き嫌いもある」。

先月7日に1階級上の井上尚弥(29=大橋)が現役王者で世界5階級制覇王者のノニト・ドネア(39=フィリピン)との3団体王座統一戦に臨み、2回TKO勝利を飾っていた。階級の違いはあれど、同じリマッチでもあり、状況は似ていた。同じ日本人世界王者でもあり、比較されるは当然だろう。それをすべて胸に受け止めた上での発言だったと思われる。

1度、井岡は現役引退している。世界王者であり続けること、プロボクサーの苦悩から解放された時期を経て、ボクシングへの捉え方や価値観が間違いなく変わったように見える。前述の発言にもあるように「ナンバーワン」から「オンリーワン」への変化と言える。同階級の最終ターゲットは2団体(WBAスーパー、WBCフランチャイズ)統一王者フアン・フランシスコ・エストラーダ(32=メキシコ)と設定したものの、14日の一夜明け会見では「(王座統一の)タイトルというよりも、世界的に評価が高いエストラーダとやりたい」との言い方だった。

引退期間中だった18年2月、同階級の強豪が集うSuperfly2(米イングルウッド)を視察した際、WBC世界同級タイトル戦に臨むエストラーダの姿を目に焼きつけたことも現役復帰へのきっかけだった。その時に胸に芽生えた「世界的に評価のある選手と試合したい。米国リングで戦いたい」という原点の気持ちにはブレがない。

時に笑顔を交えながら井岡は報道陣に向け「みなさんも一緒に取材しても、違う記事を書くから紙面として違って(読者が)買われるわけじゃないですか。好みがあるじゃないですか。多分、プライドとしてこっちの記事がいいでしょと。それと一緒です。僕にしかできないことをみせて、僕が見せたい景色、一緒に景色をみたいと言っている人に対して、期待に応えたい」と率直な気持ちを口にした。自ら信念を貫くこと。ブレないこと。覚悟を決めて厳しい世界を生き残る術を伝えられたようだった。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

9回、井岡(右)はニエテスを攻める(撮影・足立雅史)
9回、井岡(右)はニエテスを攻める(撮影・足立雅史)
試合後、井岡(手前)を祝福するラウンドガールの、左から波田妃奈、ぽぽちゃん、倭早希(22年7月13日撮影)
試合後、井岡(手前)を祝福するラウンドガールの、左から波田妃奈、ぽぽちゃん、倭早希(22年7月13日撮影)