3月15日、都内でプロボクシング・ライトフライ級の前アジア3冠(日本王座、東洋太平洋王座、WBOアジア・パシフィック王座)王者岩田翔吉(27=帝拳)を取材した時だった。4月1日、東京・後楽園ホールでWBOアジア・パシフィック同級15位ジェローム・バロロ(23=フィリピン)との同級10回戦を控え、最終調整中。昨年11月、WBO世界同級王者ジョナサン・ゴンサレス(プエルトリコ)に挑戦し、判定負けして以来約4カ月ぶりの再起戦を控える岩田は「今日、KIDさんの誕生日なんですよね」とさみしげな表情を浮かべた。

18年9月、多臓器不全で亡くなった総合格闘家・山本“KID”徳郁さんの存在が岩田にとってファイターの「原点」だ。9歳の時、KIDさんのジム「KILLER BEE」に入門。中学2年時からボクシングに専念した後もKIDさんや家族、弟子となるファイターたちの交流は続いていた。世界再挑戦を見据え、再びボクシングのリングに戻る岩田は「やはりKIDさんのことを考えたりします」とぽつりと口にした。

世界初挑戦だったゴンサレス戦は王者のディフェンス重視の「負けないボクシング」に手を焼き、最後まで崩しきれなかった。「相手のうまさ、強さは分かるけれど、不完全燃焼でしたね。表現するなら、ボクシングというものの『概念』を崩されたという感じ」と悔しさを押し殺すように話した。

一方でポジティブに気持ちの切り替えもできている。岩田は「さいたまスーパーアリーナの大舞台で世界戦ができました。世界初挑戦で難しい相手と当たったという経験。これを次に生かせるようにやっていきたい」と納得するような態度でうなずくと、最後に「面白い試合をしたかったですね」と強調した。

面白い試合とは-。それは「神の子」KIDさんの現役時代を意識したものだ。04年大みそか、K-1ルールで魔裟斗と激突し、05年には格闘技イベントHERO,Sのミドル級世界最強王者決定トーナメントでホイラー・グレイシー、宇野薫、須藤元気と強豪を下して優勝を飾った。さらに06年HERO,Sの宮田和幸戦で開始4秒KO勝利をマーク。ファンを熱狂させる試合をみせてきたKIDさんをファイトが脳裏に焼きついている。

再起戦の対戦相手バロロはランカー上位とも互角な試合を展開できる「隠れた強豪」となる。岩田は「(世界戦で)負けたということ、自分が面白い試合をしていないという、その2つがすごく悔しかった。今回はジムがすごく好戦的な人を選んでくれたのでうれしい。面白いと思ってもられる試合がしたい」と声をはずませる。

世界初挑戦で負けた後も世界ランキングではWBC2位、WBA3位、WBO7位と世界再挑戦を狙える位置にいる。KIDさんが他界した時に「魂を受け継ぐ」と誓い、プロボクシングの世界に飛び込んだ岩田は「再起戦ですが、また、すごいチャンスをもらえるような試合にしたい。大事な試合になる」と気合を入れ直した。KIDさんの魂を胸に秘め、ファンを楽しませる試合内容を意識し、再起戦のリングに立つ。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)