今や日本中が相撲コメンテーターだ。元横綱日馬富士関(33)による、平幕貴ノ岩(27=貴乃花)への暴行問題が発覚した11月14日以降、街ではこの話題を論じている人をよく見かける。漫才のネタになれば大きな笑いが起きるほど、今回の経緯は日本中に浸透。テレビでこの話題を扱っていない日はない。

 動きのない日でも、前日までの流れをおさらいする形でワイドショーなどは報じている。そんな時は、スタジオにゲストで呼ばれている芸能人や文化人のコメントを中心に、番組が進行するケースが多い。相撲とはまったく関係のない肩書の人も、暴行問題についてトークを展開している。

 それぞれの事情は痛いほど分かる。きっと「本当は相撲は詳しくないけど…」と思いながら出演している人も多いはず。それでも、せっかくの出演機会をキャンセルするのはもったいない、誰かに物申すキャラクターで定着しているから、と心の中で何とか折り合いをつけて出演しているのだろう。制作者サイドも、今はこの話題が旬だから何とかこれで押し通そう、いや押し通さざるを得ない、という状況で放送していることもよく分かる。それでも、土足で人の家に乗り込むような言動は控えるべきだろう。

 最低限の下調べ、その世界の事情を放送前に知ろうとする努力は必要だろう。例えば今回の問題で、日本相撲協会危機管理委員会の鏡山部長(元関脇多賀竜)が、貴乃花部屋へ文書を届けに行く姿が度々生中継された。芸能人らから「これはパフォーマンス」「自分たちはやっているとアピールするため、わざとワイドショーで生中継される時間に訪問している」といった声をよく耳にした。

 どんな職種の仕事でも、平日の日中、常識的な訪問時間には、常にワイドショーが放送されているため、避けようもない。計5度の訪問が正午以降、午後3時までに集中していたのも、相撲界では午前中は稽古があり、執行部の親方衆はその後、両国国技館内にある協会に出勤。そこから打ち合わせして出かけるとなれば、必然的にそのぐらいの時間になる。

 また、各部屋とも同様に朝稽古をして、午後3時以降は力士が体を休めたり、夕食の準備をしていたりということが多いため、訪れるならその時間帯が最適だ。相手が電話に出ず、郵便で届けようとすれば余計に1日遅れるが、20分ほどの距離だから届けるのは、時間が迫る中では普通の選択。そもそも、生中継するかどうかはテレビ局が勝手に判断することであり、生中継でなくても結局はその様子が繰り返し放送される。

 相撲界にはたしかに独特な文化がある。例えば、通称「相撲時間」と呼ばれ、約束の時間よりも何事も早く始まる。親方や現役力士、行司、呼び出しらは皆、番付や地位が下の人から先に集まるように心がけている。最後に到着する人でも、予定の30分~1時間前ということも多く、そろった段階で物事が始まってしまう。新弟子検査など、新弟子の人数が少ない時には、検査する側の最後の親方が入った時間に始まり、当初の予定開始時刻には検査どころか、片付けまで終わって全員引き揚げていることもある。協会に呼ばれたある親方が、当初予定の8時間以上前から待機していた姿を見たこともあった。

 そんな独特な世界だからこそ、どういう概念、しきたりが根底にあるのか、発信する立場であれば特に事前に知ろうとする努力が必要なように感じる。出演者も制作者も、この問題を扱っている間の一時的なものかもしれないが、それで飯を食っているプロなのだから。

 最近、この問題に関してテレビに出演する機会が増えたという関係者は「実は上手な司会者は『この人にこのことを聞いたら、本職で立場がなくなってしまう』という話は振らない」と話していた。今後の関係に気を使うこともなく、無責任に何でもかんでも批判することほど簡単なことはない。暴行問題も佳境に入った。これまで自由に発言していた人が、どうやってこの問題を結ぶのか。年末年始のどさくさに紛れてうやむやにするのか。コメンテーターの力量も問われるのではないかと、勝手に注目している。【高田文太】