貴公俊が付け人を殴って問題になった。「付き人」でなく「付け人」。親方が部屋の若い衆(幕下以下の力士)を関取に付けるから「付け人」と言われる。一般的に十両以上は関取1人に対し、2、3人が付く。仕事は多い。支度部屋で着替えを手伝ったり、準備運動で対戦相手の代わりになったり、風呂場で背中を流したり、タクシーを手配したり。定期的に付け人を入れ代える部屋もあれば、10年以上にわたって代わらないこともある。師匠の考えが、そこに反映されるのだ。

 関取未経験の若い力士にとって、付け人を務めることは貴重な経験になる。十両や幕内のピリピリした雰囲気を肌で感じ、関取衆がいかにして取組に向けて集中力を高め、準備していくかを目の当たりにできる。

 関取にとっては、付け人の実力を心身ともに引き上げることも大事な仕事だ。相撲のいろはを教え、関取の立ち居振る舞いも学ばせる。横綱稀勢の里、大関高安らも、かつては若の里(現西岩親方)の付け人を経験して、関取として巣立っていった。

 付け人が関取の「戦力」になることもある。番付は下位でも、観察眼に優れ、作戦を練る上で付け人が頼りになる場合も多い。近年では、安美錦と扇富士(引退)、豊ノ島と豊光(引退)、北太樹(現小野川親方)と太田などはその典型だろう。名参謀として、関取の頭脳にもなっていた。

 実は今場所、役員選挙の感情のもつれがきっかけで、ある幕内上位力士の付け人が交代したと聞いた。これまで、ある部屋から借りていた付け人を、あえて借りなくなったという。生々しい人間らしさこそ大相撲の魅力の1つだが、そこはやはり力士が力を出せる環境作りを望みたい。

 関取が取組で勝った時、支度部屋に残ってモニターを見つめていた付け人が「よっしゃ!」と自分のことのように喜ぶ光景は、いつみても和む。旭天鵬(現友綱親方)が優勝した時、花道の奥で付け人たちが涙を流して迎えたシーンも有名だ。互いにいい関係でありたい。【佐々木一郎】