大相撲史上初の無観客開催となった春場所中「記者席から 緊急連載・厳戒の春」と題し、識者の見解や舞台裏などを15日間掲載する。第1回は好角家で漫画家のやくみつる氏(60)に聞いた。各プロスポーツが中止、延期とする中、いち早く無観客で開催し「よくぞ開催した」と評価した。

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よくぞ開催した。多くのお年寄りが集まる通常開催は、さすがに難しいが、相撲だけ特別視してほしくなかった。本場所は昇格、降格に関わる仕事。今も普通に仕事している、マスコミやメーカーなどの企業と同じように仕事をさせてあげたかった。他のスポーツよりも早く、無観客で公式戦を行ったのは評価できる。

初日をテレビ観戦したが良しあしを感じた。良かったのは神聖な面が出たところ。横綱土俵入りで、初めて四股を踏む音、すり足の動作の音、化粧まわしと土俵の摩擦音、呼吸音まで聞こえた。今まで考えもしなかったが「こういうタイミングで息を吐くのか」と知った。相撲が神事であると見つめ直す機会になった。理事長あいさつでも四股を「邪悪なものを抑え込む」と言っていた。「コロナ」という言葉こそ使わなかったが、考えさせられた。

良くなかったのは淡々と進んでしまうところ。お客さんの声は、今や熱戦の必要条件になっている。炎鵬が吹っ飛ばされた場面は悲鳴が上がるところだが、淡々と進んでしまった。残り14日間は土俵際などで攻防を見せないと。休校の子どもたちが、初めて相撲を見たとしたら次も見たいと思わない。相撲はもっと面白い、こんなモンじゃないという取組を見せてほしい。