繁華街からほど近くにある春場所会場のエディオンアリーナ大阪。その周辺に例年とは違う光景が広げられる。正面とは逆の協会関係者の出入り口がある、人通りの少ない車道に並ぶタクシーの列だ。普段は使わない若い衆らが複数人で乗り込む。注意喚起の周知で近隣への迷惑は抑えられているが、序盤は数珠つなぎになる混雑もあった。

3月1日の夜。ある部屋に突然、地元のタクシー会社の幹部が訪れた。理事会で無観客開催が決定し、力士の移動も基本的に公共交通機関を使わないことも発表された。関取衆は後援者らの送迎が多いが、若い衆は必然的にタクシー通いになる。それを見越した営業のあいさつだった。観光客の激減から「空港や新大阪駅に行っても客はいないし(夜の繁華街)北新地に行っても10時に人はまばら」と嘆く業界関係者にとっては、すがる思いだろう。

配車を優先する配慮もする。会場付近では“力士待ち”している空車も見受けられる。距離にして片道1万円以上かかる部屋もいくつかある。ただ、事が事なだけに“思わぬ経済効果”と喜ぶわけにはいかない。ある運転手は「お相撲さんに感染させてはいけない」と不安の声を漏らす。一方で逆に「感染する」リスクも等しくある。誰もが目に見えない相手と闘っている。【大相撲取材班】