新大関正代(28=時津風)の熊本への凱旋(がいせん)帰郷を取材した。

大相撲秋場所で熊本県出身では初の優勝を飾り、県では栃光以来58年ぶりの大関昇進を果たした。その英雄が帰ってくる。本来なら県民をあげて歓迎したいところ、じゃまをしたのが新型コロナウイルスだった。

熊本・宇土市の元松茂樹市長は、地元後援会の顧問も務める。「息子が同い年なんですよ」と幼いころから知るという。「まさか、ここまでになるとは思わんかったですねぇ」。体は大きいが気が弱いというか、気が優しい印象が強かったという。「人に気遣いばかりしてましたね。こげんことで勝負事に勝てるのかと思ってました」。昔から人柄を知るだけに、大関として帰ってきたことが心底、うれしそうだった。

宇土市では祝賀パレードを計画し、日本相撲協会に申請している。パレードのルートは決定済み。使用するオープンカーも手配済みという。しかし、感染拡大防止に神経をとがらす中、なかなかOKは出ない。市長は「11月場所も優勝して、その場所後にできるとなれば盛り上がると思うんですが」とプランを描く。

正代の故郷愛も強い。コロナ禍の前は毎場所後に帰郷していたほどだ。地震、水害と自然災害に見舞われてきた地元へ恩返しの気持ちも強く持ってきた。「すごい心配で、自分のできることは何かと。災害があって今まで以上に稽古に取り組む意識が強くなった気がする」。大関正代の根っこには、常に「熊本」があり、支えている。

市長は「宇土を『うと』と言ってもらえるようになっただけでもすごい貢献。『うど』という方も多かったですから」と話す。派手な歓迎はない、ひっそりとした凱旋(がいせん)帰郷。それは大関正代の人柄にふさわしく、どこか温かかった。【実藤健一】