大相撲初場所が24日に幕を閉じた。場所直前に協会員を対象に実施した新型コロナウイルスのPCR検査の結果、力士65人が休場。世間からは、盛り上がりに欠けるのではないか、感染者が出ているのになぜやるのか、と開催に向けて否定的な声があった一方、こういう時期だからこそ神事と呼ばれる大相撲の本場所開催に意義があるのではないか、といった声も多々あった。開催についての賛否両論がある中、出場する力士らからの感染者を出すことなく15日間を完走した。

初場所千秋楽で、日本相撲協会の芝田山広報部長(元横綱大乃国)は「お客さんをはじめ、協会、スタッフの協力のおかげ。昨年7月から4場所になるけど、ちゃんと国の方針の中で対策を取って15日間乗り切れた。たくさんのみなさまに感謝いたします」と話した。出場力士らに感染者が出た場合は中止も視野に入れていただけに、初場所完走への達成感、周囲への感謝の気持ちにあふれていた。

しかし、協会員全員が同じ気持ちだとは限らないようだった。ある現役力士は、悲痛の叫びを訴えてきた。

「このような状況で本場所を開催するのは間違っている。ここまで開催中に感染者が出ていないのは奇跡的状況だと思う。力士は一般の人と体が違う。太っていて、糖尿病の人もいる。万が一、感染した場合、本当にどうなるか分からない。命の危機を感じる。中止という選択肢をもっと真剣に考えてもらいたい。もっと現役力士のことを考えて欲しい」

もちろん、協会が何も対策を取っていない訳ではない。新型コロナウイルス対策のガイドラインを作成するほか、その時期に合った細かな規則を各部屋に通達するなど、感染症対策に真剣に向き合ってきた。本場所中には観客に対して、さまざまな感染症対策の徹底を促したりもした。本場所前後も本場所中も、世間の感染状況を注視するなどし、あらゆる局面で柔軟に対応してきた。そのかいあってか、本場所中に感染者を出すことなく、有観客での開催を続けてこれているのは事実だ。

思いを訴えてきたある現役力士も、観客の前で土俵に上がれることへの感謝は口にしている。それでも、やっぱり、この状況下で本場所を開催することについて恐怖心があるという。初場所直前には、新型コロナへの恐怖心などを理由に引退を決意した力士もいた。ある現役力士は「協会ともっと話し合えたり、意見を交換できるよう場を設けて欲しい。僕らの思いも聞いて欲しい」と協会との意見交流の場を求めた。

現役力士の土俵上での奮闘は長年にわたって、多くのファンに感動や勇気を与えてきた。それは今も変わらない。むしろ、コロナ禍だからこそ、より一層に大相撲の役割は大きいと感じる。地方での本場所開催はまだ見通しは立たず、巡業再開のめども立っていない。全国で大相撲を楽しみにしている多くのファンのためにも、相撲協会と現役力士には、より一丸となってもらいたい。そう思える、現役力士の訴えだった。【佐々木隆史】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)