大相撲3月場所も、大阪から東京・国技館に開催変更が決まった。大勢で移動し、1カ月以上の共同生活。新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言下において、やむをえないことと理解できる。現実的には納得できても、心の奥底で寂しさをぬぐえない。

大阪で長く暮らしていると、相撲に春の到来を感じる。2月にエディオンアリーナ大阪に先発事務所がたち上がり、場所に向けてさまざまな行事が行われる。街中でびん付け油の香りが漂うころになると「きたか」と思う。そんな季節感を今年は味わえない。

雰囲気だけでなく、現実的に影響を受けるところも多い。チケット販売や土産物、弁当などを扱うお茶屋さん=相撲案内所はその最たるものだろう。昨年も史上初の無観客開催となり、大きなダメージを受けた。あるお茶屋は場所が始まる1週間前という直前の決定に発注済みの土産物や雇う予定だったアルバイトへの対処に追われた。損害額についても「計算できる状況にないが、規模が大きいところほど大変じゃないか」と話していた。

「今年こそ何とか」の思いは、またもコロナに阻まれた。あるお茶屋はホームページ上に「去年に続き、大阪で開催されないことは大変残念ですが、令和4年度を楽しみに前を向いていきます。テレビ等でもうしばらく熱い応援をよろしくお願いいたします」と掲載した。無念さをこめつつ、相撲ファンであり続けてほしい熱い思いが伝わる。

大阪は特定の力士をひいきにする「タニマチ」の語源とされるという説がある通り、好角家が多い。芝田山広報部長(元横綱大乃国)も開催変更を発表した際、「昨年は無観客。それだけに大阪の方々の相撲熱はある。たくさんの方に来ていただけるメリットがあった」とコメントしている。

お茶屋だけでなく、飲食店やホテル、交通など経済的影響ははかりしれない。それでも今は必死に耐えなければならないのだろう。来年こそ、「いつもの春」が大阪に戻ってくることを信じている。【実藤健一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)