多くの力士に勇気を与えるカムバックだ。人気力士の宇良が、元大関の栃ノ心を突き落として勝ち越しを決めた。17年九州場所以来の幕内復帰で、勝ち越しは同年夏場所以来。苦難の時を乗り越え、最後は頭から土俵下に転落して1回転した宇良は、まるで子どものような笑みを浮かべた。

取組後は勝ち越しに「うれしいです」と話すも「まだ終わっていない気持ちが強い。残りの相撲があるんで、そっちに集中したい」と表情を緩めなかった。

今場所は序二段まで落ちながら、綱とりに挑む大関照ノ富士が主役の1人を担っている。陥落後、照ノ富士の番付最下位は西序二段48枚目。一方、宇良は西序二段106枚目で、幕内経験者の最大カムバックとして戦後1位を記録した。

その上での勝ち越しは尊い。宇良は今場所中、何度も「(幕内の)レベルの高さを痛感している」と話し「自分の体がもつか」と不安をもらしてきた。2度の両膝の大けが。今も再発の不安と闘う。復帰を決めたのも「1度でも関取に戻れたら」という思いだった。

最高位は17年名古屋場所の東前頭4枚目。空白と大けがを乗り越え、三役を目指す。「あきらめない」思いは強い。【実藤健一】

(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)